直球勝負の会社―戦後初の独立系の生命保険会社はこうして生まれた

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・直球勝負の会社―戦後初の独立系の生命保険会社はこうして生まれた
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異色のベンチャー創業物語。

ライフネット生命保険
生命保険

戦後初の独立系の生命保険会社 ライフネット生命保険を創業したのは日本生命出身の還暦社長 出口治明氏。「正直に経営し、わかりやすく安くて便利な生命保険商品・サービスを提供する」という会社理念は一見穏健だが、行動は選択と集中に徹した業界の風雲児だ。掟破りの保険の内訳情報公開で世に物議を醸した事件は記憶に新しい。保険会社が懐に入れる手数料がいくらなのか初めて白日に晒してみせたのである。

ちなみにライフネットの付加保険料(手数料のこと)は

契約一件当たり250円(月当たり)
(営業)保険料(月額250円の定額部分控除後)の15%
予定支払保険金・給付金の3%

の合計であるそうだ。

・業界初!"保険の原価"を開示したライフネット生命に怨嗟の声
http://diamond.jp/series/inside/08_12_13_001/

資本金100億超といっても大手の保険会社の資本金は兆円規模である。後発弱小のベンチャーとして、ライフネット生命は「20代、30代、40代の子育て世代を対象とした死亡保険」に商品戦略を絞り込んだ。

「保険料を半額にしたい」
「保険金の不払いをゼロにしたい」
「(生命保険商品の)比較情報を発展させたい」

という目標を掲げた(保険料を半額には既に達成してしまった)。そして一社専属販売で旧態依然とした保険業界を革新すべく、徹底的に合理的な保険商品を作り込んでいく。ライフネットのサイトでは同社の保険料のシミュレーションだけでなく、他者の商品との比較サイトに誘導する仕組みさえ用意されている。

ライフネット生命の戦略は商品を徹底的にシンプルにすること。まず商品の特約を全廃した。解約払戻金や配当は支払わない。保険料の振り込み方法を月払いのみ、銀行等の口座振替とクレジットカード払いに限定した。保険金額の増額や、払済保険・延長保険への変更などの諸変更を行わない。契約者貸付、保険料自動振替貸付、保険契約の復活などの諸制度を取り扱わない。ないないづくしの分、コストが少ないから保険料が安い。

この本では出口社長が、創業を決意し、若い経営パートナーと出会い、準備会社を立ち上げ、免許申請を行い、100億円以上の資本金を集め、遂に役所の認可を受け、生命保険会社を立ち上げる。戦後初の独立系保険会社だから前例がなく難関だったはずだが、振り返る文章からはあまり危なげを感じない。試行錯誤の過程も一歩一歩自信を持って歩いてきたように読める。保険業界で経験豊富な著者が、満を持しての還暦起業だったからなのだろう。

業績的には2008年5月開業から2009年2月末までの営業で保有契約件数は4000件強。ウェブのみで大手に対して健闘しているが、5年以内に15万件という当初目標を達成するには、まだいくつもの山を越えていかねばならない。でもこの社長ならやってしまうかなと思わせる魅力をこの起業本から感じた。創意工夫の人のようである。

日本生命時代の経験談として、部下に勉強をさせる目的で業界誌を使ったというエピソードが面白かった。

「また『生命保険経営』という業界誌に部下によく投稿させていました。まず四月に、私が『生命保険経営』誌の事務局と話をして、年間の掲載枠をもらってしまうのです。その後で部下を集めて、阿弥陀くじで執筆担当と締切を決めます。あとは各人に自由にテーマを決めさせ、督促するだけです。何人かの部下は、あまりにも横暴だと文句を言いましたが、私は、「お小遣い(原稿料)が入る、賢くなる、有名になる」という三つの利を説いて、説得してしまいました。」

この結果、部下からは何人も優秀賞が出て、『生命保険経営』事務局からも感謝されたという。

原稿が集まらなくて困っている機関誌(業界紙、社内報、学界誌など)は世の中にたくさんあるはずだ。執筆者を集めてくるから年間で枠を下さいというのは十分ありな話だろう(無論、ある程度の信用は必要だが)。この方法はジョブトレーニングに広く使えるのではないか。個人のキャリアアップや会社の知名度向上にもつながる。発行者も執筆者を確保できて、関係者全員がWin-Win-Winだ。こういう取り組みを思いつくのがベンチャー経営者の資質なのだと思う

・デグチがWatch
http://www.lifenet-seimei.co.jp/deguchi_watch/index.html
著者のブログ。

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このページは、daiyaが2009年4月27日 23:59に書いたブログ記事です。

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