ゲームと犯罪と子どもたち ――ハーバード大学医学部の大規模調査より

| | トラックバック(0)

・ゲームと犯罪と子どもたち ――ハーバード大学医学部の大規模調査より
41FLZmdLisL__SL500_AA240_.jpg

「1994年から2001年までに殺人、強姦、強盗、加重暴行による逮捕者数は44%減少し、逮捕者数に占める青少年の割合は1983年以来最低となった。1993年には殺人事件による青少年の逮捕者数が3790人に達したが、2004年は1110人で71%減少した。」

ちなみに1995年が一般には暴力的とされるアクションゲームの大ヒット作『DOOM』の発売年である。この7年間はゲームが一般に浸透していく時期であった。一般の予想に反して、米国では(おそらく日本でも)ゲームの人気と現実世界の青少年の暴力は確実に反比例していたのである。

この本はハーバード大学医学部は1257名の子供と500名の保護者、数百名の業界関係者を対象に、ゲームが子供に与える影響を科学的に調査した報告である。結論からいうと、いくつかの相関はあるが、子供のゲームと暴力行動の間に強い因果関係は認められないという。

確かにゲームをする時間が長ければ長いほど、ゲームの内容が暴力的であればあるほど、男の子も女の子もいじめの加害者である割合が高くなる。週にゲーム遊び1時間未満の子供が加害者になる割合は1.4%だが、6から8時間ゲームをする子供では11.7%である。特に女の子の場合は顕著で、ほぼ毎日ゲームをする女の子は他の女の子と比べていじめの加害者や被害者になる割合が高い。

だが、この数字をゲームが子供に悪影響を与えると解釈しては間違いである。逆に、ほとんどのゲームをする子供がいじめも問題行動もしないことを意味しているのである。圧倒的多数の子供がゲームを遊ぶ中で、たとえ6から8時間も遊ぶような熱中派でさえ、9割の子供には問題が起きないということになる。ゲームと暴力は一部に若干の相関が見られるが、強い因果関係は認められないのだ。軍隊ごっこや宇宙人ごっこと何が違うのか。

そして定期的にゲームをしない(まったくしない、または通常週に0回)という子供の方が、暴力的ゲームをする男の子に比べて、けんかや窃盗、学校での問題行動を起こす割合が多かった。

これについては著者らは「男の子にとってゲームをするのは普通のことであるため、調査結果をそのまま解釈すれば、「ゲームをしない男の子は普通ではない」ということになる。」と解釈している。同様にゲームをたくさんする女の子は普通ではない。だから問題行動につながりやすいと見る。

他の研究事例の分析からは反社会的行動や暴力的行動の多くは遺伝的特性によるものが大きく、メディアの影響はあまり大きくないという事実も挙げられている。ゲームにも何らかの悪影響はあるかもしれないが、総体的に見たら順位が低くて問題にならないレベルというのが著者らの結論である。

ゲームについて保護者にできることとして「最初の一歩は、「子どもを暴力的なゲームから守るには、どうしたらいいですか?」というよく聞かれる質問を「子どもがゲームをする時間をもっとも有効に使えるように、どう手助けすればいいですか?」に変えることだ」という提言がある。

この本にはゲームのレイティング表示の話が出てくる(一定の効用を認めている)のだが、暴力や性的要素を判定するのではなくて、クリエイティブ度だとか教育的効用というポジティブ面を評価する別のレイティングを作ったらいいのではないかと思った。悪いゲームを禁止するのではなく、よいゲームを推奨することができれば、ゲーム市場も活性化するだろう。じゃあ、なにが本当に良いゲームなのか?ということになると、それはそれで調査研究が必要ではあるのだが。

・ダメなものは、タメになる テレビやゲームは頭を良くしている
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/post-937.html

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: ゲームと犯罪と子どもたち ――ハーバード大学医学部の大規模調査より

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.ringolab.com/mt/mt-tb.cgi/2531

このブログ記事について

このページは、daiyaが2009年6月23日 23:59に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「ザ☆歌謡ジェネレーション」です。

次のブログ記事は「心霊写真―メディアとスピリチュアル」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

Powered by Movable Type 4.1