みずうみ
川端康成のいやらしい小説。
「嫌みな感じ」「好色な感じ」
日本語のいやらしいには二つの意味があるわけだが、どちらの意味でも、いやらしいのがこの本の読み所。
かつての教え子を執拗に追いかけるストーカー男と複数の若い愛人(でも女嫌い)を囲う変態老人の歪んだ意識の物語。
「銀平が後をつけているあいだ、宮子はおびえていたにちがいないが、自身ではそうと気がつかなくても、うずくようなよろこびがあったのかもしれない。能動者があって受動者がない快楽は人間にあるだろうか。美しい女は町に多く歩いているのに、銀平が特に宮子をえらんで後をつけたのは、麻薬の中毒者が同病者を見つけたようなものだろうか。」
ストーカーも、追わせる女も一般の通念に照らすとなにか狂っている。その独りよがりな意識の流れを、そのままに描写する。場面はしばしば記憶の中の過去に飛ぶ。意識の流れを追体験するような文体が特徴である。
痴態の描写がたっぷりあるにも関わらず、よく読むと実は一度も男女は交わっていないのである。女は下着を一度も脱いでさえいないようである。それなのに官能小説張りの艶っぽさが漂う。老人が密室で若い女の裸を愛でるという設定は「眠れる美女」に通じる、オヤジ的嫌らしさである。
ノーベル文学賞作家のちょっと暴走気味の作品。
・名人
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/05/post-988.html
・愛する人達
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/post-961.html
・眠れる美女
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-847.html
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