100年予測―世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図

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・100年予測―世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図
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グローバルで物事を考えたいなら読む価値あり。ジャック・アタリあたり(洒落じゃないよ)が好きな人は必読。

#個人的には久々にむさぼるように読んだ本。

各国政府、軍機関、多国籍企業、ヘッジファンドなどを顧客に抱え、「影のCIA」と呼ばれるインテリジェンス企業ストラトフォーのCEOジョージ・フリードマンが書いた長期未来予測。文字通りの100年の計である。著者に言わせれば2008年の金融危機などありふれた景気循環の山にすぎない。

主な予測は以下の通り。

・21世紀はアメリカの時代になる。
・日本、トルコ、ポーランドが新たな覇権国として台頭する
・意外にも中国が世界的国家になることはない
・海洋、そして宇宙を制する者が覇者となる
・2050年頃に勃発する世界戦争は宇宙戦争である
・21世紀後半のアメリカの脅威は隣国メキシコである

10年先だって怪しいのに、100年後の予測など当たるわけがないというのが常識的な見方である。だが、著者の地政学的見地に基づく勢力地図の変化の予想は、結構な説得力がある。国の置かれた地理的な属性というのは不変であるし、水が高い場所から低い場所に流れるように、位置エネルギーは存在するように思えるからだ。攻めにくい国もあれば攻め込まれやすい国があるということは歴史が証明してきた。フランスとドイツのように歴史的に戦争を繰り返す隣国関係も多い。

「国家や政治家は、ちょうどチェスの名人がチェス盤、駒、ルールに制約されるのと同じように、現実の制約の中で、当面の目標を追求する。そのように取る行動が国力を高めることもあれば、国を破滅に導くこともある。」と著者は説明する。これは未来の国家の指導者や国民がどのような意思決定をするかではなくて、むしろチェス盤や駒、ルールに着目しての、枠組みから導かれる予想なのである。

基本的に人口が多く経済規模が大きい国が強いという原則があるようだ。

「一人当たり国民所得は確かに重要だ。だが国際的な影響力にとっては、経済全体の規模の方がより一層重要である。軍事関連費に充当できる原資の規模を決定するのは、経済規模なのだ。ソ連と中国は、どちらも一人あたり国民所得は低かったが、経済規模がとてつもなく大きかったために、強国になることができた。実際歴史を振り返れば、貧しくても巨大な経済と莫大な人口を併せ持つ国が、侮れない国になっている。」

島国で、人口が多く、経済規模が大きな日本は、だから今後も強いのである。2020年頃からアジア進出を目論むだろうと予想されている。平和主義を掲げる日本だが、増長するアメリカが日本の産業の原材料確保を脅かしたとき、軍事的に積極的な国家にガラッと変身するという不穏な内容だ。日本の現在の平和主義は永遠の原理ではなく順応性のあるツールに過ぎないと指摘している。

「日本が大きな社会変革を経ても基本的価値観を失わずにいられるのは、文化の連続性と社会的規律を併せ持つからである。短期間のうちに、しかも秩序正しいやり方で、頻繁に方向転換できる国はそうない。日本にはそれが可能であり、現に実行してきた。日本は地理的に隔離されているため、国家の分裂を招くような社会的、文化的影響力から守られている。その上日本には、実力本位で登用された有能なエリート支配層があり、その支配層に進んで従おうとする、非常に統制の取れた国民がいる。日本はこの強みを持つがために、予測不能とまでいかなくても、他国であれば混乱に陥るような政策転換を、何なく実行することができる。」

そして日本はトルコと同盟してアメリカに対抗する連合の盟主となると予言されている。本書には2050年代のアメリカとの宇宙戦争、その結末まで興味深い未来が記述されている。日本が軍国主義化するというのはともかく、21世紀の主要国家のひとつであり続けるという話はなんだか嬉しい内容である。

著者にかかると私たちが普段重視している経済、技術、文化などというソフトな問題は大局的にみると重要な問題ではないようにさえ思えてくる。地勢、軍事力、人口、制海権などハードな問題が本質にあるという考え方。読みながら何度もうならされた。

・21世紀の歴史――未来の人類から見た世界
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/21-1.html

・未来ビジネスを読む 10年後を知るための知的技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/2005/03/10-4.html

・二十年後―くらしの未来図
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/04/post-68.html

・歴史の方程式―科学は大事件を予知できるか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000778.html

・22世紀から回顧する21世紀全史
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000419.html

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このページは、daiyaが2009年11月24日 23:59に書いたブログ記事です。

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