「戦争」の心理学 人間における戦闘のメカニズム

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・「戦争」の心理学 人間における戦闘のメカニズム
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戦闘という極限状態における人間の心理と生理メカニズムを「戦争における「人殺し」の心理学」の著者で元米国陸軍士官学校教授のデーヴ・グロスマンが語る「戦士学」。前作に匹敵する中身の濃さとボリューム。

現実の戦闘はドラマのようにかっこよくはいかないものらしい。たとえば第二次世界大戦時の米兵の四分の一が尿失禁の経験があると認め、八分の一は大失禁したと認めている。激戦を経験した兵士の半分が尿を漏らし、四分の一が大便を漏らしたと認めている。9.11テロにおいても生存者の大半が大小失禁をしていた。

戦闘は人間の心身を追い詰める。兵士の心拍数が175回/分を超える「黒の状態」になると、肉体的精神的に緊急時の身体反応モードに移行する。身体が自動操縦モードになって反射的に撃ってしまうことがある。トンネル視野になって視野が狭くなり、選択的聴覚抑制が起きて銃はポンとしか言わなくなる。「当たったときは聞こえない」と古参兵の言葉が紹介されている。

「警察官の心拍数が145回/分を超えている場合はとくに危険だ。心拍数が増大すると左右相称運動が起きやすくなるため、容疑者のシャツを片手でいっぱいつかむと、銃を持った手もとっさに把握反応が起き、意図せずして発砲してしまうことになる。」と警察官でも似たような反応が起きるそうである。

極限化では血管でさえも通常と異なる状態になる。「銃撃のあとで、三人の警察官が互いに負傷がないか確認していた。するとそのうちのひとりが、自分の袖の上腕部分に小さな穴があいているのに気がついた。正面側と裏側にひとつずつあいている。「危ないところで当たらなかったんだな」と、彼は見るからにほっとした顔で言ったが、そう口にしたとたん、腕の傷口が開いてどっと血が噴き出してきたのである。ぶじだったと思って安心したせいで、血管収縮が終わって血管拡張が始まったわけだ。」

と、極限状態の戦士の心身が、いかに通常と異なるはたらきをするか、多くの事例で示される。こころのはたらきもまた異常である。たとえばパートナーが殺されたとき、多くの人の最初の反応は安堵である。

「突然の暴力的な死を前にすると、たいていの人はまずほっとする。自分が同じ目に遭わなかったので安堵するのである。たとえばパートナーや仲間が殺されたとしても、まずは「自分でなくてよかった」と思う。だから、あとになって自分の最初の反応を思い出すと罪悪感を覚える。罪の意識にさいなまれてしまう。なぜなら、それは正常な反応だと一度も教えられなかったからだ。」

こうした「黒の状態」の知識は裁判員に選ばれた人たちが知っておくべき知識のような気がした。戦闘や犯罪の極限状態では普段の人間性なんて出ないものなのだ。事件に巻き込まれたときのサバイバル知識としても役立ちそうだ。出番がないことを祈るノウハウばかりであるが。

・戦争における「人殺し」の心理学
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/03/post-365.html

・SAS特殊任務―対革命戦ウィング副指揮官の戦闘記録
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/05/sas.html

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このページは、daiyaが2009年12月10日 23:59に書いたブログ記事です。

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