恥辱

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・恥辱
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南アフリカのノーベル賞作家J・M・クッツェーの代表作。2度目のブッカー賞受賞作品。

ノーベル賞が冠にあるからさぞ高尚な内容なんだろうなと思って読み始めると、いきなり娼婦と寝たり女子学生をナンパする話で始まって、ものすごく下世話な話題や不名誉な修羅場がその後も続いていく。

冒頭で52歳で大学教授の主人公は女子学生との不適切な関係を訴えられて査問委員会にかけられる。不器用な主人公は同僚らの温情にすがることもせず、不名誉な形で大学を追われ、農園で働く娘の元に身を寄せる。静かな暮らしをするはずが、貧しい農園での生活はさらなる恥辱に満ちた転落人生の始まりだった。

この本は人生のあらゆる局面でありえる恥辱(原題:Disgrace)に満ちている。

地位や名誉を剥奪される恥辱
性的スキャンダルにまみれる恥辱
黒人に屈服させられる白人の恥辱
娘に生き方を軽蔑される恥辱
大切なものを目の前で汚される恥辱
老いて醜くなるという恥辱
わけも知らず殺されていく動物の恥辱

などなど、よくもこれだけ、ひとつのストーリーにさまざまな恥辱を織り込めたものだなと感心する。客観的には完全に落ちていく人生なわけだけれども、不思議と主人公に暗い印象はないのがいい。自業自得の運命を淡々と受け入れていく。マゾヒスティックな感情があるわけではない。アパルトヘイト後の南アの白人の立場や、老いて衰えていく人間の諦念を、その態度は象徴しているのかもしれない。

人生における不名誉、屈辱、取り返しのつかない失敗に直面した時、人間はどうやりすごしていくかを考えさせられる、ルサンチマンな純文学。テーマの割に重たくはなくて、読みやすい、わかりやすい、おもしろい小説だ。

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このページは、daiyaが2010年11月17日 23:59に書いたブログ記事です。

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