ソーシャル・ビジネス革命―世界の課題を解決する新たな経済システム

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・ソーシャル・ビジネス革命―世界の課題を解決する新たな経済システム
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ノーベル平和賞受賞者・グラミン銀行総裁のムハマド・ユヌスが書いた「ソーシャル・ビジネス革命」。この人以外が書いたら眉つばもののタイトルであるが、世界を変えたこの人が書いたから、これは本物である。

この本で私が勉強になったポイントは3つ。

まずソーシャルビジネスを定義し、似て非なるものを厳密に区分けしていること。

「ソーシャル・ビジネスにはふたつの種類がある。ひとつ目は、社会問題の解決に専念する「損失なし、配当なし」の会社で、起業を所有する投資家は、上がった利益をすべてビジネスの拡大や改善に再投資する。先ほど挙げた例はすべてこのカテゴリーに含まれる。私たちはこれを「タイプI」のソーシャルビジネスと呼んでいる。 ふたつ目は、貧しい人々が所有する営利会社だ。これは直接所有される場合もあるし、特定の社会的目標に専念するトラスト(信託機関)を通じて所有される場合もある。私たちはこれを「タイプIIのソーシャルビジネス」と呼んでいる。貧しい人々に利益が分配されれば貧困が緩和されるため、この種のビジネスは当然ながら社会問題の解決に役立つ。グラミン銀行はタイプIIのソーシャルビジネスの一例だ。」

ユヌスの基準で考えると、日本や欧米でブームに乗って出てきた多くのソーシャルビジネスが、もどき、ニセモノということになる。そもそも従来型の営利企業のための株式会社の枠組では、次の原則を満たすソーシャル・ビジネスは難しいもののように思える。

・ソーシャルビジネスの7原則

1 経営目的は、利潤の最大化ではなく、人々や社会を脅かす貧困、教育、健康、情報アクセス、環境といった問題を解決することである。
2 財務的・経済的な持続可能性を実現する。
3 投資家は投資額のみを回収できる。投資の元本を超える配当は行われない。
4 投資額を返済して残る利益は、会社の拡大や改善のために留保される。
5 環境に配慮する
6 従業員に市場賃金と標準以上の労働条件を提案する。
7 楽しむ!

重要なのは、まずは5人を助けるビジネスをタネとして考えること。それがうまくいったら、そのタネをまけば、百万人、千万人を助ける社会変革につながる。決して最初から大きく変えようと思わないこと、だそうだ。

ポイントの2つ目はユヌスの立ち上げたグラミン・グループの全貌を理解できること。

グラミン・グループの事業はマイクロクレジットの銀行経営だけではない。携帯電話のグラミン・テレコム、エネルギー(家庭用ソーラー)のグラミン・シャクティ、医療サービスのグラミン・カルヤン、教育のグラミン・シッカ、クリエイティブ・ラボなど、多くの子会社を立ち上げて、貧しい人々の生活をよくするため、幅広い事業に進出している。

グラミンは営利企業との合弁企業を次々に設立して成果を上げ始めている。ソーシャルビジネスは協力者の助けを得ることが重要だが、相手が営利企業というのもありえる。逆にいえば、営利企業がソーシャル・ビジネスで成功するには、グラミンと組んでしまうのが一番よさそうだ。

この本で紹介された事例

グラミン・ダノン 低価格の栄養ヨーグルトの生産と販売
グラミン・インテル ITを利用して社会的利益
グラミン・アディダス ワンユーロシューズで靴のない人を世界からなくす
グラミン・ヴェオリア・ウォーター 廉価にきれいな水を供給する

営利企業は貧しい国が十分に豊かになるのを助けてから回収すればいい。

そしてこの本の3つめのポイントは、ユヌスの人生観、世界観がわかること。

なぜ安定した教授の地位を捨てて、ソーシャルビジネスに取り組むことにしたのか。どのような苦労があったのか。これから何をしようとしているのか。ユヌス自身の人生と人生観がよくわかる本だ。

「誰しも、他者を助けたいという強い利他的欲求を持っている。これは、個人的利益に対する欲求と同じくらい強い。しかし、従来の資本主義は、人間の持つこの強い衝動を活かそうとしてこなかった。その結果、世界経済は偏った成長を続け、格差はみるみる広がった。」

数十億人を置き去りにした20世紀の経済発展の時代が終わり、21世紀はソーシャル・ビジネスの時代ととらえ「理論的には、経済全体をソーシャル・ビジネスで構成することも可能だ。」と、そこに無限の可能性を見ている。

とっくの昔になくなった貧困問題を展示する貧困博物館をつくるのが自分の夢だと語るユヌス。社会起業家必読の本。

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このページは、daiyaが2011年1月16日 23:59に書いたブログ記事です。

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