2100年の科学ライフ

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・2100年の科学ライフ
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未来予想というのは、基本はあまり当たらないものであって、当たるかかどうかより、今の自分にとって啓発的かどうかで、その価値が決まるといってもよいと思う。科学関係のテレビ番組でおなじみの物理学者ミチオ・カクが今日の科学技術の延長線上として、SF小説の如く具体的な記述で、リアリティを感じさせる2100年イメージを語っている。これはすごい。

まず「コンピュータの未来」「人工知能の未来」が大きなイノベーションをもたらす。

「2100年までにコンピュータの性能が急激に向上すると、われわれはかつて崇めていた神話の神々のような力を手に入れ、周囲の世界を純然たる思考だけでコントロールできるようになる。神話の神々が手を振ったり頷いたりするだけで、物を動かしたり生き物を作りかえたりできたように、われわれも思考の力で周囲の世界を制御できるようになるのだ。環境にちりばめられたチップといつでも心でコンタクトをとって、密かに命令を実行できるのである。」

超伝導やブレインインタフェースの応用で強力な磁場により物体を思考で動かすことができるようになる。まるで魔法の世界だ。未来の私たちはコンタクトレンズや眼鏡で、現実の世界に仮想イメージを重ねてみながら暮らす。身体能力をインプラントチップにより強化し、犬や猫にしか聞こえない音を聞けたり、紫外線、赤外線、エックス線を見ることができる。外国人との会話では語学力は問題ではない。コンタクトレンズには外国語の字幕が出る。そして首と顔の筋肉の動きをセンサーが拾って母国語を声に出さずもごもごいうだけで外国語が発声される。心を読み夢を録画できるコンピュータ。だがハードウェアと違いソフトウェアの進化は緩やかと予想されている。

医療の進化によって人間の死が不可避でなくなる。若さを取り戻す。本人が望む年齢で老化をとめることさえできるようになる。テクノロジーと人間の生き方の関係にも言及が多い。ナノテクノロジーにより原子レベルで操作してなんでもつくることができるレプリケーターができる。欲しいものは望みさえすればなんでも手に入るようになり、持つものと持たざる者の差がなくなる。資本主義が機能しなくなり、地位や政治権力もなくなるかもしれない、という。

社会や人間の仕事も変わる。ロボットにできないこと。高度なパターン認識と常識を持つこと。創造的な資質を持つ職業、芸術、演技、ジョーク、ソフトウェア開発、リーダーシップ、分析、科学などの職業は生き残るが、単純事務の下級公務員、銀行の窓口係、経理担当などは仕事がなくなる。

こうした未来の予想にはひとつの法則があると著者はみている。

「問題は、現代のテクノロジーと原始的な祖先の欲求との軋轢があるところでは必ず、原始の欲求が勝利を収めていることだ。それが「穴居人の原理」である。たとえば、穴居人はつねに「獲物の証拠」を要求した。逃がした大物を自慢してもだめなのだ。逃がした獲物の話をするより、獲ったばかりの動物を手にしているほうがいいに決まっている。今のわれわれも、資料というと必ず、プリントアウトしたコピーを欲しがる。人はコンピュータの画面に浮かぶ電子的な文字を本能的に疑ってしまうため、不必要な時でも電子メールやレポートを印刷する。だからおオフィスのペーパーレス化は完全に実現してはいないのだ。」

ハイテク(先進技術)とハイタッチ(人間同士の触れ合い)。人は両方を欲しがるが、選択を迫られたら、祖先の穴居人と同じようにハイタッチを選ぶという生物学的選好は、リスクマネジメントでもあったのだろう。一足飛びに目新しいものに飛びつく人間ばかりでは、全滅してしまうかもしれない。アーリーアダプターもいればレイトマジョリティもいるのは種として正しいパターンなのだと思う。

「現代社会の最も憂うべき一面は、社会が知恵を蓄積するよりも速く、科学が知識を蓄積していることだ」アイザック・アシモフの引用があったが、著者はかなり楽観的に未来をとらえて予想をしており、長い本だがとても楽しい読書体験である。変に問題意識と悲観のビジョンで書かれていたらうんざりしていただろう。テクノロジーがひらくことができる可能性を知りたければ必読書。

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このページは、daiyaが2012年11月19日 23:59に書いたブログ記事です。

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