アカデミー賞を買った男―夢を追いかけて映画バイヤーになった

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ラストエンペラー、アマデウス、シカゴ、ミリオンダラー・ベイビー、キル・ビルなど、誰もが知っている30作品以上のアカデミー賞受賞作品を買い付けた凄腕映画バイヤーの自伝的な業界ガイド。

そもそも映画バイヤーとはどんな仕事なのか。


独立系映画製作会社、あるいはそこが作った映画の海外セールスを代理するセールス会社から、日本での配給権(劇場配給、その6ヵ月後のビデオ発売、さらに6ヵ月後の権利行使になるテレビ番組放映セールス権等)を一定の期間(通常8年から12年)独占的に買う仕事。この日本での劇場、ビデオカセット・DVDのビデオグラム、フリー・ペイTV配給権のいわゆるオールライツ(全権利ベース)の交渉をする

劇場公開用映画のオールライツのほとんどはMG(ミニマムギャランティー、最低保障取り分)を、先に支払う構造。その金額は製作費の7〜12%。ハリウッド映画超大作を買う場合には、400万ドル〜1500万ドルが相場で、これに加えて公開には宣伝費用が4億円から10億円必要だそうだ。この10億、20億の一大プロジェクトの命運を左右しているのが、映画バイヤーということになる。

年々、バイヤー間の競争が激化していて、映画が出来てから買うでは遅いそうで、脚本レベルで買う必要がある。そこで映画バイヤーは英語の脚本を読みながら、頭の中で出来上がりを想像して、巨額の投資を決めるそうだ。想像を膨らませる感性が求められる。

著者はインタビューの中で感性についてこう答えている。


感性とはフィーリングですか?センスですか?

梅原 両方。一般映画は100万人規模のお客さんを相手にするじゃないですか。バイヤーは1人で100万人の相手をするのですが、共通項を考えたらダメで、自分の感受性を信じるしかない。自分が監督しているつもりでやらないと。

有名作品の買い付けエピソードや、具体的に数字入りの買取金額や採算の内訳、アクの強そうな業界人同士のビジネスバトルが、次々に出てくる。関係する会社の概要にも詳しく、業界地図が把握できる。文章は独白メモ的だが、情報量は多く、本音が書いてあるのがいい。映画バイヤーの仕事はシード段階のベンチャー投資にも似ているとも思って興味深かった。

とても参考になったのが巻末付録のWebリンク集。映画業界のプロが見ている海外情報ソースがたくさん開示されている。3つほど紹介。

・Variety.com - Entertainment news, movie reviews, industry events - Variety Magazine Online
http://www.variety.com/index.asp?

映画業界人必須の雑誌のサイト。

・ROTTEN TOMATOES: Movies and Games, Reviews and Previews
http://www.rottentomatoes.com/

世界的に著名な映画批評家のサイトで好きな上位60%をFresh、59%以下をRottenとして斬る。

・Ain't It Cool News: The best in movie, TV, DVD, and comic book news.
http://www.aintitcool.com/
スニーク試写の感想サイト。多少(良い意味で)偏っているらしいが、米国の新作映画が公開数ヶ月前にチェックできる。


映画バイヤーという、まったく知らなかった仕事の内幕を知ることができた。この著者は劇場映画専門だが、インターネット公開の動画専門バイヤーというのも、将来、花形職業として登場するのかもしれないと思った。やってみたい気もする。

・私の好きな映画たち(1)
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000734.html

・私の好きな映画たち(2)
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000735.html

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このページは、daiyaが2005年8月25日 23:59に書いたブログ記事です。

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