ディープエコノミー 生命を育む経済へ

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・ディープエコノミー 生命を育む経済へ
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地域や人間に深く根ざした分散型経済「ディープエコノミー」をつくるべきだと説く環境ジャーナリストの本。資本主義一辺倒でもなく、環境絶対主義でもなく、その中間に持続可能な経済と魅力的な生活が両立できるゾーンがあると著者は力説する。人間にとっての生活満足度、幸福感をいかに高めるかという視点でかなり説得力のある議論が展開される。

米国でも日本でもヨーロッパでも戦後にGDPは何倍にも伸びたが、生活満足度は変化がない。経済は豊かになったにもかかわらず、アル中、自殺、鬱病の割合は激しく上昇した。研究によると人間は貧しいうちは一貫して幸福を金で買うことができるが、一定の収入を超えると幸福との相関関係がなくなる。その一定の収入を先進国の住民はほぼ全員が上回った状態にある。そしてさまざまな生活の質指数の調査が示しているのは「(裕福な世界では)人に対する気持ちは、消費、貯蓄に関係なく金銭に対する気持ち以上に、主観的な幸福感を決定するものだ。」という事実だった。

資本主義経済の発展は地域コミュニティの人間の絆を破壊し、いままさに環境を破綻させようとしている。しかし、考え方を少し変えると経済と環境の両立のオプションもあると著者は世界中のコミュニティ経済の成功した試みを紹介する。

たとえば、アメリカの農業では現在は小規模農家の方が生産性がずっと高い、という話はわかりやすい。小規模な生産者は土地の特性を細かく把握しているので、単位面積当たりの収穫が大規模農園よりずっと多くなる。そして小規模農家が栽培した有機野菜は、地域の市場(ファーマーズマーケット)で大規模農業の野菜よりも高く売れる。ファーマーズマーケットはこの10年で数も売り上げも倍増しているそうだ。

こうした地域経済においては人々のコミュニティも発達する。精神的な絆が復活することで、生活満足度が上がっていく。アーミッシュのような共産主義コミュニティではなくて、個人主義の基本は維持したまま、心地よいレベルのコミュニティを形成していくフィジビリティスタディがある。

アメリカ人が口にする平均的な食べ物は6回の乗り換えを経由して2400キロも輸送されている。この長距離輸送などに伴い地域で生産された食物を食べる生活と比べて5~17倍の二酸化炭素を放出することになる。日本でも地域農業ベースの食生活に切り替えると二酸化炭素排出は2割も削減されるそうだ。

もちろん壁となるのは人々の意識である。

「しかしながら、地元産食糧への取り組みが直面している最も根深い問題は、私たちがどほんのわずかしか食べ物に払わないことに慣れてしまったことだ。どれだけの石油を使っているか、どれだけの温室効果ガスを大気中に放出しているか、どれだけの補助金が税金から出ているか、どれだけの損害を地域社会に与えているか、どれだけの移民労働者が障害を負っているか、どれだけの汚水が溜まっているか、どれだけの距離の高速道路が必要か。そういう意味では高くついているのかもしれない。しかしまあ、カートを押してレジへ進むと、かなり安いのだ。」

経済合理性という観点では個人レベルでは今のスーパーマーケット経済が合理的に見えてしまう。環境が経済の外部性として扱われてしまい、個人のお財布に影響を与えないからだ。グローバル経済レベルでこの外部性を内部化するという政策が今まさに議論されている。各国は排出した二酸化炭素を買い取るような取り決めを作ろうとしている。税金や価格にいずれ負担は反映される。もちろん、そういう強制的解決の方法はありそうだ。

しかし規制があるから仕方なくという論理よりも、ファーマーズマーケット経済の楽しさ、幸せを実感して自然に変わるということが、持続型経済への移行の近道である気もしてきた。「地域社会に、そして力を合わせて働く人々に充填を置くこと」で「エネルギーは10分の1、会話は10倍」の幸福な生活を作ろうという、著者のフューチャージェネレーションのアプローチは、○○を環境のために止めよう、というのではなくて、幸福な生活のために○○をしようというロジック。ポジティブで受け入れやすいと思う。

環境と経済の両立を考える上で洞察に満ちた一冊。


・人類が消えた世界
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/06/post-765.html

・+6℃ 地球温暖化最悪のシナリオ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/02/6-4.html

・成長の限界 人類の選択
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003701.html

・地球のなおし方
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003752.html

・世界の終焉へのいくつものシナリオ
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・文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004210.html

・文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (下)
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このページは、daiyaが2008年7月 7日 23:59に書いたブログ記事です。

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