情報革命バブルの崩壊

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・情報革命バブルの崩壊
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ITバブルが崩壊どころか世界経済がやばいという昨今的状況ですが「本書のテーマは、これら金が余っていたころに作られた情報革命のルールが、これから金が干上がっていくとき、どう変わっていくのかを見定めることにある。」という切り口で、ネット論客として知られる切込隊長山本一郎氏が書いた新書。濃い週刊誌の巻頭特集記事×5本みたいでタイムリーに面白かった。買うなら今な本だ。

・ネット空間はいつから貧民の巣窟に成り下がってしまったのか?
・ネット無料文化は終わる
・ソフトバンクの崖っぷち経営

など刺激的な論調が満載なわけだが、私が共感した部分は本筋ではないような部分なのだけれども、2か所抜き出してみる。

まず一つ目は、新聞というメディアについて。そういえばちょうど朝日新聞が創業130年にして初の赤字決算というニュースが先日あった。そんな中で新聞各社の差別化について隊長はこう語る。

「新聞業界の目線からすると、概ね全国紙各紙の紙面構成は共通している以上、そこで特徴のある紙面を構成しようとすると、スクープか論調(思想)しかあえりえないことになる。ただ、そうそう日々スクープ記事など書けるはずもなく、定常的にその新聞のその新聞らしさを発揮するためには、編集方針として特定の主義主張に基づいた論調で記事を編集することで、他紙にはない紙面づくりができるとされる。しかしその新聞業界側が他紙との差別化として価値があると考えている「論調」は、読者からすれば興味がない。」

今年のはじめに私も同じことを思ったのだった。

・あらたにす
http://allatanys.jp/

あらたにすは、2008年1月に開始された日経・朝日・読売の合同ポータルサイトである。各社の記事が横並びで表示される。新聞社側としては読み比べてくださいの意味なのだろうが、私が最初にこのサイトを見て感じたことは、大新聞はどれも一緒だな、もはやひとつでいいんじゃないの、ということだった。以前から気がついてはいたけれど、社説と書評程度しか違わないことがこのサイトではっきりしてしまった。正直、読み比べる意味がわからない。

二つ目の共感点は、プロに求められる情報量とタコつぼ化に伴うディスコミュニケーションの話。

「仕事で、趣味で、実用以上の成果を出すためには情報が必要だが、成果を出すために必要な閾値というものは情報化社会のおかげで着実に上がっている。本来の情報化社会とは、その人に必要な情報を効率よく大量に消費させることが可能な社会であるはずが、その方面で使い物になる人材になるためには飽きるほど情報摂取をし、常にスキルアップを続けなければ、文字通り半可通という烙印を捺されてしまう存在に成り下がる社会であると言えよう。」

という部分と

「一方、情報化社会が進展すると、その人が生きるためのコア知識の閾値が増大した結果、一般的な情報、とりわけまったく興味分野などが異なる第三者と話し合うために必要な情報が充分仕入れられないことになる。これでは話が合うはずがない。対人スキルが乏しく人づきあいのできない日本人が増えたという事情もうなづける。」

という部分。

記憶の容量は変わっていないのに、記憶すべき専門知の情報量が増えたせいで、一般教養などの共有知の割合が減ってしまい、その結果、対人コミュニケーションが難しくなったというロジックは、面白い分析だと思った。

といいうわけで、以上であるが、もし切込隊長氏がこのブログを読んだら、「なぜ俺様がいっぱい書いたのになぜおまえはそんな非本筋の部分ばかり引用するのか」と思われるだろう。

インターネット業界で新しい価値を生み出す企業がまだまだ登場するとポジティブに考えている「情報革命はこれからだ」の私としては、ネット業界が危ないという論調はコメントが難しい。博打やバブルの追放は賛成だ。同じ状況認識であり御意なのだけれども、見方はネガ・ポジ反転しており、あんまりコメントしたくないのである。で、そういう都合の悪さがあるからこそ面白い本なのである。

・けなす技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003238.html

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このページは、daiyaが2008年11月25日 23:59に書いたブログ記事です。

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