2005年03月30日

けなす技術このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加


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・けなす技術
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■くだらない本だ、1500円以上の価値がある

この本は広くは売れないだろう。狭く熱狂的に売れるかもしれない。

週刊誌の電車吊り広告に”ネットのカリスマ”と書かれるくらい著名な”切込隊長”のブログは何か事件があると私も見に行く。隊長の文章は、意味が先鋭的に圧縮されていて、二重の意味でキレている。毒がある。ただの毒では摂取しにくいが、広範な分野の知識と濃い人脈から得た情報を、高性能な脳をフル回転させて、短評にまとめるなり、フィクション仕立てにするなりして、読者に高品質な情報エンタメとして提供してくれる。

・切込隊長BLOG(ブログ) 〜俺様キングダム
http://kiri.jblog.org/

だが、切込隊長のハンドルネームであれだけキレた冴えのある文章をネットに書くのに、紙の本に山本一郎で書くと、急に毒がなくなってしまう。何がいけないって、説明が多くて、無粋なのである。彼は過去にも何冊か書いているらしいが、どれもネットでの人気に反してあまり売れないのは、やはり、この毒抜きされた文化人的文体がいけないのではないだろうか。隊長のブログをそのまま印刷して解説付きで出版したほうが、売れる気がするのだ。

隊長の洗練された、けなす技術はひとつの技芸(メチエ)である。それを鑑賞しに多くの読者がサイトを訪れている。読者は隊長と言うキングコブラの中毒患者なのだ。

この本のタイトルである、けなす技術について山本一郎氏は要らぬ解説を書いている。


あえて褒めるより、けなすことを手法として紹介しているのには理由がある。議論を行ううえで、相手の意見に賛同することは、論点を掘り下げることに何らの貢献も見いだせないからである。わざと反論し、けなし、紛争を起こすことが問題の本質に近づく最短距離であり、議論を志向するものはすべからく称賛と批判の2つの武器を研ぎ澄ましておくべきである。そもそもあらゆる事象は賛成も否定もできてしまうのである。賛成しかしない人物は存在しないに等しい。そして、それはその人物が単なるその他大勢で取るに足らないことを自ら証明していることになるのだ。

このような自己の「俺様キングダム」的立場の、良識的正当化を普段、彼はブログではあまり書かない。その代わり、「「どうしたら世間の常識から逸脱せずに自分の意見をより鋭くできるか」という目的に集約して」圧縮した過激な文章で、読者を楽しませる。こうした立ち位置、前提の説明は、中毒者たちを解毒させてしまうだけだ。そもそも中毒者たちだって、そんなことは分かっているはずだ。

逆に言うとこの本のくだらなさは、価値でもある。メチエの技法が遂に一般公開されたのだとも言える。ネットのカリスマ切込隊長を演じている山本一郎の素顔が見える。普段は真正面から話してくれないブログのトピックについて、実にマジメに懇切丁寧に説明してくれる。彼のブログの愛読者にとっては、やっと本音を聞けたよ、な部分が1500円以上の価値を持つ。私は大満足だった。

■ネットマーケティング論、ネットコミュニティ社会学の考察が秀逸

山本一郎の素顔と本音の吐露以外にも読みどころは多い。

特にブログ文化についてのまとまった考察は、紙の本ならではだ。超人気サイトの運営者として強い影響力を持つ彼が、内側から見て、今のブログの社会的影響をどう見ているのか、は大変参考になる。

人気ブログの作り方について、実験考察した章は、ブログに関心を持つ企業サイト運営者にとっても知見である。

・国内のブログ数86万
・開始3ヶ月以内で68%が更新をとめてしまう
・凡庸な記事でも毎日更新するだけで3倍近い読者獲得ができる
・1年続くのは18%程度で通常のホームページと同じレベルに落ち着く見込み

ブログのオピニオンリーダを企業がどう扱っていくべきかにも詳しく、

・ネットの売れ筋は数ヵ月後のリアルの売れ筋に近いことの検証
・マス広告が消費者に選択肢を与え、選択肢からの決定にはネットが大きな影響力
 ネットだけではマーケティング効果は期待薄
・はてな、Mixiはネットコミュニティの主流にはなりえない

社会学的考察については、

・ネットの意見=国民の意見ではまったくない。民度は低い。
・ネットコミュニティは脊髄反射的であるがゆえに、ある種の利用価値?
・日々が楽しいと思えない有能でありながら不遇な若者の不満のはけ口と化している

などなど。気になった結論だけ抜粋したが、そこに至る解説は相当の時間をかけた考察のはずで、どれも読みどころがある。数字や事実の提示も知らなかったものが多かった。

もちろん、個人的には反論したい部分もあるのだけれど、概ね、現在のネットコミュニティの動向について、行き着くところを明示してくれる。まだ見えていない部分については仮説を提示してくれる。

ああ、一度隊長に聞いてみたかったことを、なんて分かりやすく説明してくれるのだ。いつもの過激派論調はどこへいっちゃったんだ、これじゃあ、皆にわかっちゃうよ。

それじゃくだらないよ、隊長!。

というわけで、極めて面白い人物が書いた実にくだらない本だ。隊長も一般向けの本を書くとなると必死だなという感じだ。

隊長のファンならば、そのくだらなさは1500円以上の価値があるのでマストバイだ。逆に言えば、隊長やブログ文化を知らない人にとってはこの本は無価値だ。この本を買うくらいなら、他のフツーの評論家の本を読もう。その方が、もっと当たり前でタメになるようなならぬような価値が詰まっているから。ただ、私のブログの読者にはそういう人がいないだろうから、全員にオススメである。


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Posted by daiya at 2005年03月30日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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