ギヴァー 記憶を注ぐ者

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・ギヴァー 記憶を注ぐ者
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未来SF『カッシアの物語』の原型になったといわれる名作。ちょっとアイデアを借りただけというのではなく、原作といっていいほど世界の設定は似ている。3部作というのも同じ。カッシアがよかった人におすすめ。初版は93年で、これは2010年に出た新訳版。

未来世界で人々は、あらゆる苦痛が取り除かれた完璧な"コミュニティ"に住んでいる。貧困も格差もなく平穏に暮らす代わりに、人々は自由やプライバシーを手放し、与えられた規則を厳密に守らなければならない。決められた時間に決められた仕事をする毎日。頭の中で考えたことや、感じたことまで、わかちあう"感情共有"も義務とされていた。

国家の管理と市民の相互監視によって完全に予定調和の理想郷。隠しごとや嘘など規則を破るものは"解放"されてコミュニティからいなくなる。超えてはならない川の向こうへ追放されるらしい。

少年少女は"12歳の儀式"で各々の能力や性格に最適な職業を任命される。言語への感受性が強い主人公のジョナスはその儀式で、数十年に一人しか任命されない特別の役割「レシーヴァー」を与えられた。

コミュニティにはただ一人の「レシーヴァー」(記憶の器)がいて、コミュニティの過去のあらゆる記憶を受け継いでいる。「レシーヴァー」が老いると、「ギヴァー」(記憶を注ぐ者)となり、次の世代の新たな「レシーヴァー」にすべての記憶を渡す。「ギヴァー」が「レシーヴァー」の背中に手をおき念じることで、生の記憶が直接的に「レシーヴァー」に注ぎ込まれるのだった。

その過程で自分が生まれ育ったコミュニティの正体を知ったジョナスは故郷からの脱出を考え始める。

この作品の出版から約20年。国家権力のビッグブラザーによる管理社会ではなくて、グーグル的なライフログ全共有とソーシャルネットワークによる相互監視という形で、"コミュニティ"は現出してきている。


・カッシアの物語
http://www.ringolab.com/note/daiya/2012/01/post-1586.html

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このページは、daiyaが2012年3月 2日 23:59に書いたブログ記事です。

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