ぶっちぎり世界記録保持者の記憶術―円周率10万桁への挑戦

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・ぶっちぎり世界記録保持者の記憶術―円周率10万桁への挑戦
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著者は円周率暗記の世界記録を3回更新している記憶の達人。

記憶力の強化についてさまざまな書籍がでているが、円周率8万桁超を暗唱するのに成功した実績を持つのはこの原口式だけである。方法はやはり数字の語呂合わせなのだが、独自の数字と文字変換表をつくり、物語に翻訳することで、記憶に見事に定着させている。富士山ろくにオウム鳴く式の語呂合わせであるが、8万桁の内容は「北海道松前藩の武士の旅立ちからなる壮大なストーリー」になっている。

円周率暗唱の第2位の記録保持者も日本人だが4万桁台なので、著者のやったことは書名どおりぶっちぎりの記録である。驚くべきは記録達成時の年齢が59歳で、思い立ってから4年しかたっていない。それまでの人生でも特に際立った記憶力の人ではなく、普通のキャリアの技術者だったらしい。相当の努力があったのかと思いきや、いきなり、がんばったらできなかっただろう。がんばらないからできたという持論が語られる。

この人は日々の練習も”適当”で切り上げる習慣を持っていた。やりたいときだけやっている風である。あまり真面目に取り組んでいない。お酒を飲んだ日は気持ちよく寝てしまうとか、順調に進んでいてもほどほどで切り上げてしまう。

常に腹八分目に抑えておくことで物足りない感じを残すのがコツなのだという。もっとやりたいのにやらなかったから、またやるの連続で未踏の高峰を制覇せよと述べている。

「続けるのが大事なのではない。続けられるのが大事なのだ」

「楽しくやることが肝心なのではない。楽しくやれるのが肝心なのだ」

根性や努力はまったく不要で、続けられる方法、楽しくやれる方法こそ大切だという。

前半は8万桁達成までの時間を追ったドキュメンタリ。後半は原口式記憶術の内容が詳細に語られている。著者曰くこの方法なら誰でもできるはずという。円周率だけでなく、人の名前や電話番号、誕生日や歴史年表の記憶への応用例も示される。

歴代の円周率暗唱記録保持者は第3位まで日本人で、みな語呂合わせで記憶したようだ。原口式の仕組みもそうなのだが、音と文字の組み合わせが多様に作れて、漢字のような少ない文字数で情報量が多い文字を持つ日本語の構造と関係がありそうである。

この本は二桁の九九の覚え方も教えてくれるのだが、もし日本語が暗記に有利に働くことが事実なら、もっとこの人のやり方を教育関係者は研究して、応用すべきだと思う。コンピュータ・外部記憶の時代とはいえ、記憶の容量が大きい人はまだまだ役立つ。

ところで、この著者の記録は偉業だと思うしメソッドの効果も十分にあるのだと思う。しかし、普通の人間は円周率を何万桁も覚えようという意欲がそもそも湧かないのではないだろうか。


円周率は、私にとって御仏に奉じる読経のような効果があります。どこまでも唱え続けるほどに心が癒され、身体の中の力が自然に抜け去ってリラックスの状態が延々と続くことになるのです。

だから、ついつい毎日やってしまう。暗唱の本番でも緊張で失敗しない。これがこの人の秘訣でもある。幸せな人だなあと羨ましくなった。

何かに心底惚れ込む、天命とめぐり合ったと信じる邂逅の体験は、望んだからできるものではない気がする。やりたいことは”見つける”のではなく”見つかる”が本当だと思うし、ヒトでもコトでもFall In Loveなのであって、惚れようと思って惚れるわけじゃないと思うのである。

・記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方
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このページは、daiyaが2006年2月23日 23:59に書いたブログ記事です。

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