Books-Religion: 2004年1月アーカイブ

・日本人の禁忌―忌み言葉、鬼門、縁起かつぎ…人は何を恐れたのか
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■禁忌を定義する

この本の前書きによると、古今東西の人間社会で「してはいけないこと」は、犯罪、道徳、礼儀、戒律、禁忌の5つに分類できるという。この分類を使って、事例を以下に並べてみる。

「5つのしてはいけないこと」

1 犯罪
 人を殺してはいけない
 物を盗んではいけない
 姦通してはいけない

2 道徳
 人の嫌がることはしない
 仕事はさぼらない
 迷惑をかけたら謝る

3 礼儀
 音を立ててスープを飲まない
 挨拶を忘れてはいけない
 フォーマルな場ではネクタイをする

4 戒律
 イスラム教徒はラマダン期間中は日中は物を食べてはいけない
 豚肉を食べてはいけない

5 禁忌(この項の例は本書の目次から)
 敷居を踏んではいけない
 13日や金曜日を嫌う
 夜に口笛を吹いてはいけない
 夜に爪を切ってはいけない
 葬式の後は塩で清めなければ家に入ってはいけない
 結婚式は仏滅を避ける
 巫女は処女でなければいけない
 霊柩車を見たら親指を隠す

とまあ、こんな感じだろうか?。禁忌は特殊な情報である。破ると社会的に罰せられるから、嫌われるから、経済的に損だからという理由だけで、守られてきたわけでもない。
この本では古代、平安、中世、江戸、現代の日本と世界の禁忌の成り立ちや、具体例の分析が語られていく。

評価:★★☆☆☆

■類感呪術、共感呪術と科学の接点

言葉とかかわる禁忌も多い。「4」「9」は死や苦しいにつながるから、現代でも4号室、9号室が欠番となった病院やホテルがある。有名な研究書「金枝篇」の著者である英国の人類学者フレーザーは、この種の禁忌を、類感呪術、共感呪術のひとつとして考えた。似ている言葉や連想関係の言葉はその影響が及ぶという感じ方を利用した呪術だ。

・旅研:類感呪術、共感呪術の定義
http://www.tabiken.com/history/doc/T/T136C300.HTM

ここでは、フレーザーの提示した例:「オジブワ=インディアンでは,ある人物に危害を加えようと思うと,その人物に擬した小さな木像をつくり,頭部や心臓部に釘や矢を打ちこむ。こうすると,狙われた者は,木像に釘や矢が刺された同じ時刻に,同じ身体の部位に激痛を感じる」が挙げられている。

私は会社のメンバーで残業が深夜に及んだ夏のある日、部屋を暗くして皆でこのCDを聞いたことがある。夢枕 貘原作の小説の語りのCDである(おすすめ、怖くはないです)。

・陰陽師 二人語り CD
http://www.ic-enet.com/onmyoji/index.html
onmyojifutari01.bmp

鉄輪(かなわ)は怪談の古典であるが、丑の刻参りの話である。午前1時から3時くらいの時間に神社でわら人形に5寸釘を打つ有名な呪術である。

・鉄輪と丑の刻参り
http://www.hi-ho.ne.jp/kyoto/kanawa.html

・鉄輪が伝わる貴船神社(京都)
http://kyoto.kibune.or.jp/jinja/

・丑の刻参り考
http://folklore.fc2web.com/petite/ushi.html
丑の刻参りの正式作法の解説

この丑の刻参り、効果がないわけでもないらしい。真面目な研究によると、効果がある場合には大抵は自分が呪われていることを本人が気がついた場合であるらしいのだ。であるならば、心理学におけるプラシーボ効果で説明がある程度はつくという結論になる。効果のあるクスリと思って飲めば本当に病気が治ることがあるように、呪われていると思うと体調を崩すことはありえるのだ。

少し科学になってきた。禁忌や縁起は自分や他人にプラシーボ効果をかける行為なのかもしれない。故に効果を感じる人がいて、迷信は長く生き残る。そういうことかもしれない。

■デジタル、ネットワーク時代の禁忌

禁忌や縁起は現代では重視されていない?。いや、そうでもないようだ。カバヤ食品が2002年に行った調査がある。この調査によると、現代のOLの半数以上が縁起を担いでいるし、4割以上がご利益があったと考えている。

・みんなやってる!?身近な招福祈願「縁起担ぎ」
東西OL300人アンケート調査
http://www.kabaya.co.jp/news/20021120.pdf
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上記資料より引用

成功した友人の会社の社長も、実は重要な経営方針はお母上の風水術で意思決定をしていると聞いて驚いたことがある。その会社の事業内容は、ばりばりのデジタル先端技術であり、テレビにも登場したりする人である。占い師も出世すると、経営者が主な収益源になると聞くが、現代においても、禁忌や縁起担ぎは脈々と生きている様がうかがえる。

例えば、賛否両論の住基ネット。このID番号が縁起が悪いといって、変更を希望する人が全国で後を立たないという。

・神奈川・三浦市民2人「数字、縁起悪い…コード変えて」
http://www.mainichi.co.jp/digital/network/archive/200208/19/4.html

・住基ネット住民票コード受け取り117人拒否
http://www.nnn.co.jp/tokusyu/sokoga/kikitai020901.html

こんな製品もある。部屋のレイアウトをPCで行う人気ソフトだが、風水による「間取り診断機能」を搭載している。

・3Dマイホームデザイナー 2002 家相・風水のうそホント バンドルパック
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自分自身にそういう例はないだろうか?と考えてみた。ひとつあった。パソコンのクリップボードを使う際に、私は悪い情報を長くメモリに入れておいたり、そのまま作業を終えることを避けている。具体的には、「倒産」など経営的に悪い言葉や、誰かの悪口、不吉な言葉はクリップボードに入れたままになると落ち着かない。大抵は無関係なデータで上書きしている。これには、誤操作でおかしな情報を貼り付けるのを防ぐという実用上の気持ちもあるのだが、それだけではない気がする。

■禁忌と縁起テクノロジービジネス 神社にトラックバック!

禁忌も縁起も、人間社会に普遍的に存在する情報であるならば、それは情報技術で応用が可能なはずである。

例えば有名な寺社などであれば、縁起のいいページ、リンクしたいページ、自分のWebページに貼ると運が良くなるバナー画像などを有料で提供することが可能だろう。ブログであるならば、新年には神社へトラックバック(自動双方向リンク)すると、ご利益があるという風に、ネット上にも縁起は持ち込めるかもしれない。リンクとトラフィックが増えれば何らかのビジネスが可能だ。

逆に、禁忌のページ、リンクしたくないページ、行動を抑制させる効果を形成することもできそうだ。例えば平均的日本人は、神社の中では行動を慎む。そのWebサイトにも結界を張ったことを宣言し、掲示板などのコミュニティを作れば、発言行動は抑制されるかもしれない。企業コミュニティがフレーム対応のコストを下げるために聖職者を参加させるのもひとつの手だったりして。

見てはいけない開かずのページ、30年に一回ご開帳されるご本尊ページもアイデアとして悪くない気がする。「秘すれば花なり秘せずば花なるべからず」(世阿弥 風姿花伝)。隠されていることは価値になる。すごいアクセス数が集まるかもしれない。

禁忌といえば構造主義人類学者のレヴィストロースの近親相姦に関する研究も有名である。近親相姦をはじめとするタブーは、範囲の定義が異なるだけで、古今東西どの社会にも必ず存在する構造であるとした。

ネットワーク時代、デジタル時代になっても、禁忌は形を変えて生き残っていく普遍的な情報のひとつと言えそうだ。そういう特殊な情報学をこの本で学ぶことができる。

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