Books-Religion: 2010年3月アーカイブ

・ルルドの奇跡 聖母の出現と病気の治癒
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ビジュアルな資料を多数使って、キリスト教の聖地ルルドの歴史を紹介する本。

ルルドの奇跡の調査にあたったタルブのローランス司教は1862年に次のように報告している。

「われわれは、神の母である無原罪のマリアが、ルルドの町に近いマッサビエルの洞窟で2月11日から18回、実際にベルナデッダ・スビルーの前に出現したこと。この出現があらゆる真実味を帯びていること、信者たちがこれをたしかな事実として信じていることを正当と判断する。」

ローマ教皇もルルドの奇跡を本物と認めて、ベルナデッダを聖人のひとりに列した。

教会の承認、聖堂の建設、鉄道網の整備、小説『ルルド』(エミール・ゾラ、1894)出版、聖母被昇天修道会の活躍、奇跡的な治癒の医学検証などの出来事を経て、ルルドは巡礼の聖地として確立されていく。ルルドの泉の水は多くの病人を奇跡的に治癒していると評判が広がった。現在では毎年130カ国から600万人以上がルルドの聖域を訪れている。

ルルドの聖地化で興味深いのは、核となる聖母マリアの出現を実際に見たのは内気な少女ベルナデッタただひとりだということ。他の人々は何かを見ているベルナデッタの姿を見たに過ぎない。キリスト教の神はひとりの人間またはごく少数の限られた人々の前に姿を現してメッセージを託す伝統があるが、ルルドもまたその一例である。

それから、ルルドへ行けば病気が治るとして病人の巡礼者が多いが、医学検証による奇跡的な治癒の公式認定者はこれまでにたった67人しかいない。教会はルルドの聖性は承認したが、そこで起きる奇跡を簡単には認めたがらない。それにも関らず、巡礼者は増えていく。

結局、みんな信じたいのだ。19世紀の目撃以降、信じたかった人たちの働きが、いくつかの幸運にも助けられて、この聖地と大規模な巡礼運動をつくりだしていった。信じたい人たちが信じる人たちを増殖させていったのが、ルルドの奇跡の実態だったのではないか。

聖地の誕生と巡礼の実態という切り口でビジュアルにキリスト教文化の一端を知ることのできる一冊。

・公式サイト
http://www.lourdes-france.com/

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