Books-Education: 2007年5月アーカイブ

・独学でよかった―読書と私の人生
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映画評論を中心に文筆活動で数々の受賞歴を持ち、日本映画学校校長の佐藤忠男氏の自伝。著者は、工業高校定時制卒で、少年飛行兵、国鉄職員、電話機の修理工事人などの職を経ながら、独学で映画評論家としての道を切り拓いた。自信に満ちていながら、優しさもそなえる、風格のある独白がとても魅力的。いい先生だなと思う。

評論家になりたかった著者は働きながら文章を書き雑誌への投稿を続けた。アマチュア工員が書く映画評論という物珍しさもあってプロ編集者たちの目に留まるが、会社を辞めてプロになりますと言ったら、「アマチュアだったから面白かったのに」なんて言われる。それでもめげずに猛烈な読書をして知識を蓄え、自分流のテーマと作風を洗練させ、独立独歩で世界にその力を認めさせる。

アマチュア、フリーの著者に対して、冷たいプロの世界にそのときそのときで言い返したいことがいっぱいあったようだが、自分が尊敬するプロへの敬意は忘れなかった。「読書は好きな本を読むのが基本だが、少し背伸びして、自分が尊敬したいと思う人にあやかるようにすると着実に視野が開ける。」。関心の幅、知識の深さをそうやって広げることで、ユニークな切り口の映画評論スタイルを確立していった。

「人々の知識がそれぞれの職業の専門分化に応じてその専門のごく狭い範囲に閉ざされる傾向がある今日、たとえ浅く薄くでも、それほど広い範囲の知識を求めつづけなければならない立場というのは有難いものだと言うべきではないだろうか。あらゆる部門に深い知識を持つそれぞれの専門家がいるとしても、それらの全体を大雑把に見渡せる広い知識を持つ者も社会には必要なのではないか。そんな立場をあまり意味のない雑学として卑下しないで、そこに積極的な意味を見出して行っていいのではないか。そう思ったのである。」

著者は興味の幅を、レスペクトの感情を軸にどんどん広げていった。オープンマインドな独学だから、内にこもって自滅しなかったのだと思う。他人が見ない分野に積極的に関心を持って追究する。広範な知識の網を張って、独自の視点をいつでも繰り出せるようにする。それが著者の独学人生の戦略だったようだ。

これは自伝であると同時に書評エッセイ集にもなっていて、影響を受けた本を多数紹介している。本の内容に絡めながら、豊富な知識のつながりを使って、自論の展開へと自然に導くのがうまい。

「面白い本とは面白い考えを引き出す本」という本の選び方に独学の秘訣を感じた。面白い考えが連鎖して、面白さが加速していくことで、やがて異彩を放つ。それが独学の醍醐味なのだと思う。

著者は独学の危険性を十分に認識しており、大学教育や専門家の世界を決して否定しない。むしろ使えるならば有効に活用したらいいとアドバイスしている。あらゆる機会を利用して、自分流で一流になれということだ。

巻末に付録の「独学派にすすめる99冊」がついている。古典を中心に幅広い分野の名著のリストがあげられている。何冊か書店に注文した。

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