Books-Education: 2008年9月アーカイブ

絶対音感

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・絶対音感
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幼稚園児の息子は音楽が好きそうなので、ヤマハ音楽教室に通わせている。期待しているわけではないのだが、このくらいから始めたら絶対音感がついたりして、なんて思うのは、やはり期待しているのか...。

私からすると「絶対音感」は正直羨ましい能力である。同世代の友人にも絶対音感を持つ人がいた。彼はガラスが割れる音が音階で聞こえると話した。でも、いいことばかりじゃなくて、街で流れるBGMとか音が微妙にずれていることがあって、気持ちが悪くなったりするんですよ、と嘆いている様子がまた、羨ましいのであった(笑)。

「絶対音感」とは何か?。それは音楽的天才の証なのか、何人に一人くらいが持っているのか、何ができるのか、本当に幼少期にしか身につけられないものなのか、その特殊能力の科学的な根拠は?。200人以上の音楽家、脳科学者、心理学者、音楽教育関係者にインタビューし、その神話の正体を明らかにしていくドキュメンタリ。

脳科学的な根拠は発見されていた。同じ周波数で一定の刺激を与え続けると、対応する脳内の回路が強化されて、その周波数に対する感受性が強くなることがわかっている。

「つまり、こういうことだろうか。あらゆる周波数に対して敏感な幼児期に、ある音をその音名という言葉と共に繰り返し聴かされることによって、その音に対応する周波数のカテゴリが固定され、それがドならドといった言葉と共に記憶されているのが絶対音感。いうなれば、ドレミという名のついた階段のような周波数の受け取り皿が脳につくられるようなものだと。」

絶対音感を持つ人間は次のようなことができやすくなるそうだ。

1 ほかの音と比べなくても音名が瞬間的にわかる。
2 調性がはっきりしない曲や、頻繁に転調する曲でも聴きとれる。
3 耳から聴いただけの曲を、弾いたり楽譜に書くことができる。
4 音として覚えるので、暗譜が正確にでき、長持ちする。
5 音楽のルールやセンスを早く身につけられる。
6 音楽に関すること全般が、たやすくできるようになる。

だから、絶対音感を持つ人は、自然に音楽家として成功しやすくなる。絶対音感は天才の証ではないし、創造的な音楽家の必須条件でもないのだが、優れた才能を支える道具としては大きな役割を果たすものである。

世界的に見ると日本は絶対音感の幼児教育が非常に発達していて、絶対音感の能力者を大量生産しているそうだ。絶対音感獲得を売りにする教室の取材からは、幼児教育における親たちの異様な熱気が伝わってくる。この本を読んで気がついたのだが、絶対音感は、持っている人は特別な能力と思っておらず自慢もしないが、もっていない人が、やたらとうらやましがる能力なのだ。

絶対音感の遺伝性は最新の科学では否定されている。天性のものではなくて、後天的に学ぶ学習なのだ。3歳から6歳の時期に集中的な訓練を行わないと身につけることは難しくなる。だから、絶対音感というのはその子に音楽を学ばせたいという「親や教師の明確な意志の刻印」なのだと著者は結論している。

音楽家の道に進むには有利に働くはずの絶対音感だが、意外な落とし穴もあるらしい。日本のピアノのAは440ヘルツだが、カーネギーホールをはじめ世界のコンサートピアノはA=442ヘルツと高めに調律されている。日本のピアノで絶対音感を身につけて世界舞台に出ると違和感を感じるそうである。五嶋みどり親子らの苦悩の体験が語られている。

すべてがドレミ音階に聞こえてしまい歌詞や音色を楽しめない。移調されると気分が悪くなるなど、デメリットも結構あるらしい。。どうやら音楽を気楽に鑑賞するだけの人にとっては、むしろ、ないほうがよい能力のようでもある。

98年初版ベストセラーの文庫化。絶対音感という神話を、実に多方面からのインタビューで解体しており、とても読み応えがある内容だった。音楽教育や学習理論、認知科学に関心のある人に特におすすめ。

・絶対音感トレーニングDS
http://www.success-corp.co.jp/software/ds/onkan/

NintendoDSのソフトで絶対音感の診断と訓練ソフトを発見した。でも訓練しても、私にはもう無理なんですよね。こどもと、すでに持っていて自慢したい大人向け、だそうです。

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