Books-Education: 2010年4月アーカイブ

・<就活>廃止論 と 4月20日開催 早稲田大学キャリアサポートセミナー
41YWQzPleWL.jpg

仲の良かった学生が就職活動をする姿を見ると、悲しくなることがある。あんなに活き活きとしていた若者が、慣れないリクルートスーツを着て、借りてきた猫のように、行儀よくしている。覇気や活力が見えなくなる。業界の大物でもなんでもないタダの面接官を前にして、それまでの生き方や能力を試される。一斉試験とあわただしい面接でわかることなんてわずかだ。私が知っているその学生の良いところを面接官は引き出す能力があるだろうか?。面接官の資質の方を私は疑いたくなる。

「ワン・トゥー・ワンマーケティング」と呼ばれる、ターゲットを絞り、ターゲットに合わせたアプローチをとる手法が一般商品のマーケティングの世界では当たり前になっているのに、新卒採用業界ではいまだにマスマーケティングが主流だ。企業と学生の間に入る採用支援の業者にとって「たくさん集めて、たくさん落とす」手法のほうがお金になるので、巧みに真実が隠されているのだ。」

学生の就職支援、企業の採用支援を行うジョブウェブ社長の著者は、終身雇用、年功序列と一体だった新卒一括定期採用は、世界でも異例であり、その前提が崩れた今や時代に合わなくなっているから止めるべきだと提言する。

こんな大胆な提案をしている。

提案1 「選考試験」は大学一年生からスタート
提案2 優秀者には複数年入社パスを発行
提案3 学生の入社意思表示は大学四年の十月に
提案4 選考試験フィードバックの実施
提案5 新卒通年採用、毎月入社

そして理想的な就職の在り方として技術系学生のモデルを紹介して、インターンシップの導入をすすめている。

「たとえば、技術系学生の就職を考えてみればよい。技術系学生の生活は基本的に研究室を単位に成り立っており、研究室はその先生が持つ技術と関連の深い企業と非常に密接な連携を保っている。それはもちろん就職のためにそうしているわけではなく、研究・教育活動というものが、企業社会の動向と切り離すことができないからそうなっているのである。学生たちは先生や卒業生との関係を前提に、そうした関係の深い企業に就職していく例が多い。」

優秀な学生をとるには「行動原理の有無」をみろという。学生を採用する企業の面接官にとってのポイントも学べて、大変勉強になった。

さて、同窓生であったこの本の著者の佐藤幸治さんのプロデュースで早稲田大学にて学生向けに下記イベントに出演することになりました。早稲田大学にご縁のある方はぜひご参加ください。

・キャリアサポートセミナー 第一弾(トークセッション)
http://www.waseda.jp/career/event/2010/4-20.htm
・早稲田大学キャリアサポートセミナー第一弾
http://koji.jobweb.jp/?p=4131


=================以下は告知です。


キャリアサポートセミナーでは複数のスピーカーをお招きし、「学生時代を如何に過ごし自分を作ってきたか」についてご自身の体験談や考え方をトークセッションや講演会の形で語ってもらい、その上で、各分野においての今の生き様を披露してもらいます。

第一弾 トークセッション
本学OB(一部他大出身者含む)の方々が各日のテーマに基いて行うトークセッションです。

■1日目 4/20(火)「インターネットの可能性」早稲田大学
国際会議場 井深ホール(定員400名)16:30~18:00
<スピーカー>津田大介氏
IT・音楽ジャーナリスト。本学社会科学部卒業。2002年、個人運営のニュースサイト「音楽配信メモ」を立ち上げる。『Twitter社会論 - 新たなリアルタイム・ウェブの潮流』『仕事で差がつくすごいグーグル術』等の著者。

<スピーカー>橋本大也氏
データセクション株式会社取締役会長。早稲田情報技術研究所取締役。本学在学中に「アクセス向上委員会」を立ち上げビジネスを開始。ITビジネス全般の技術評価及びマーケティング戦略のコンサルタントとして活躍。主な著書『情報力』『情報考学--WEB時代の羅針盤 213冊』。


<トークセッションイメージ(案)>
(1)いま、どんな活動をされていますか。(自己紹介)
(2)学生時代はどんなことをしていましたか。
(3)今の自分につながるターニングポイントはありますか?
(4)学生時代を充実するためのネットをどのように活用すべきでしょうか。
(5)今、変えなくてはいけないと思っている世の中の問題ってなんでしょうか。
(6)学生からの質疑
(7)これから、どんなことをして行きたいと思っていますか?
(8)学生へのメッセージ

・教育の職業的意義―若者、学校、社会をつなぐ
41WSRubbPmL__SL500_AA300_.jpg

日本人の大卒のほとんどは企業へ進むはずなのに、大学では職業のことはほとんど教えない。就職では地頭がよくて<適応>する素直な若者が好まれた。企業は採用に当たっては個人の能力ではなくて「潜在能力」を基準としてきた。高度経済成長期には企業が職業教育を丸抱えしたので、それでもなんとかなっていた。しかし「日本的雇用」が後退する中で、職業能力を形成することができなかった学生たちが非正規社員、不安定な雇用、低賃金にあえぐことになった。だが彼らは不当な扱いに抗議する<抵抗>の術も教わっていなかった。

日本は高等教育の職業コースに進む人が少ないというデータが紹介されている。日本の後期中等教育(主に高校をさす)では、普通教育コース在学者比率が75%に達しているが、OECD加盟国平均では同比率は50%程度。他国ではほぼ半数の生徒が職業に関連するコースを学んでいるのに対して日本では四分の一にとどまっている。

こうした職業専門領域には「ビジネス・法律」「技術・建築」「農業」「サービス」「医療・福祉」「情報」「人文・芸術」などがあるが、ほぼすべての領域で日本は在学者が少ない。多くの学生は普通科に進み、進学のための選抜基準としての科目を学習する。どうしてこんなことを勉強しなければいけないのかと思う」比率が高校一年時で61%に及ぶそうである。(本書紹介のベネッセ教育研究開発センター調査)。

そして高校や大学を卒業した途端に「勤労観や職業観」を問われる。もっていなければおかしいとされる。だから一斉に自分探しとやりたいこと探しに追われて「自己実現アノミー」に陥る。

大学と企業がうまくつながっていないのは明らかだ。日本的雇用の終焉と不況によって、その齟齬が明らかになり、本書の言う「教育の職業的意義」をもう再考する必要がでてきたというのは本当だと思う。著者は重要なのは「柔軟な専門性」を身につけることだと結論している。

柔軟な専門性とは「弾性と開放性をもつ「暫定的な」職業的専門性を、「とりあえず」身につけること、そこを言わば基地として、隣接領域やより広範な領野への拡張を探索してゆくこと」。高校福祉科を出て福祉以外でその能力が活かせた例などが挙げられている。
プログラミングでも会計でも旋盤工作でも、専門技能をひとつ持つことから広がるというのは確かにいいアイデアな気がする。プロ意識も芽生える。企業のインターンシップや社会人の講義などがもっとあるべきだったと私も自分の受けた教育を振り返って感じている。

もちろん高等教育が職業教育に終始して就職予備校化するのは本末転倒である。この本がいうように、「金融の知識を与えると同時にマネーゲームがもたらす世界的な機器や不安定化をも伝え、いかにしてその危険を抑制しうるかについて考える。食品の加工・調理についての実践的スキルを教えるだけでなく、農産物や水産物と密接に関わる地球規模の環境問題や南北格差についても伝え、未来にわたる人類の持続可能性に関して考える」というあり方でなければならないわけではあるが。

大学では「教育の職業的意義」は常に議論が分かれる話題だ。しかし、この本の国際比較や実態研究を見る限りでは、もっともっと重視すべき話のように思える。

現代における教育の意義を考えるのにとても良い本。

このアーカイブについて

このページには、2010年4月以降に書かれたブログ記事のうちBooks-Educationカテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブはBooks-Education: 2010年3月です。

次のアーカイブはBooks-Education: 2010年5月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

Powered by Movable Type 4.1