Books-Education: 2009年3月アーカイブ

・お笑いの世界に学ぶ教師の話術―子どもとのコミュニケーションの力を10倍高めるために!!
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「1980年代の荒れは、中学生たちが学校教師に暴力をふるい、校舎を壊すという非常にわかりやすいものでした。しかし、1990年代に火のついた学級崩壊は、小学生たちが先生の話を聞かずに、おしゃべりをし、立ち歩きを始めるという地味な荒れでした。教師がその対応に失敗してトラブルになることはありましたが、基本は私語とと離席という現象の発生でした」

飽きやすくなった子供たちには、わかりやすいだけではダメで、わかりやすさプラス「面白く」話す必要が出てきた。私語も禁じるのではなく、バスガイド嬢のように、私語が一杯の中でも、それを柔軟に対話に活かしながら、授業を進めるる姿勢が有効という。

そこで著者は、明石家さんまやビートたけし、みのもんたや島田紳助ら、テレビ番組で活躍するお笑い芸人や司会タレントの巧みな話術を研究して、教育の現場で使えるノウハウ集をつくった。

お笑いは「フリ」「オチ」「フォロー(つっこみ)」から成り立つ。「今まで教師は「オチ」を自分で担当しようとして失敗をしてきた。子供たちに「オチ」を担当させ、教師は「フリ」「フォロー(つっこみ)」を担当しよう」という路線である。脱線トーク、ツカミの技術、フリの技術、フォローの技術、キャラの技術、バラエティゲームなどにカテゴリ分けされて、ワザが紹介されていく。

たとえば「先生、その字間違ってますよ」と言われたら、板書している手をピタリと止める。手にはチョーク、体は黒板の方を向いたままである。数秒間、この体勢のままでいる。「先生、どうしたんですか?」という声が子どもから上がったら、黒板の字を何気なく消して、さらりと言う。「何かあったんですか?」」などという切り返しワザ。ミスに意地悪なツッコミを入れる学生は本音では先生に近づきたいので、先生側もちょっと意地悪なユーモアで切り返す。すると距離が縮まるというわけである。

基本は小・中学の教員向けなのだが、大学の授業や会社の新人研修、家庭での教育にも応用が効きそうなワザが満載である。いかに聴衆のアテンションを保ちながら、長い話を聞かせるかの技術論だから。

・環境教育 善意の落とし穴
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未来バンク理事長、ap bank監事の田中優氏が書いた環境教育論の小冊子。善意と無知が環境問題を間違った方向へ導こうとしていると指摘する。

・東京の純粋な家庭ゴミは一般廃棄物のうち27分の1に過ぎない
・純粋な家庭からの二酸化炭素排出量は全体の13.5%に過ぎない
・家庭の電気消費量は全体の4分の1、問題の夏場ピーク時の1割に過ぎない
・日本の二酸化炭素の半分は200の事業所から排出されている

いくら家庭で「みんなの心がけ」や「電気をたいせつに」したところで、環境問題は全然解決しないのである。

著者はこれまでの「身近なところから」式の環境教育に異論を唱える。

「環境教育が問題解決をめざすものであれば、全体像で、自分たちの位置をつかむことが重要だ。「やっぱりゴミは産業が出すものが圧倒的だから、こういう企業を変えていかなければなりませんね」という結論なら理解できるのだが、「やっぱり私たちのライフスタイルが大事ですね。心がけで地球を守りましょう。がんばれば不可能はありません」では、竹槍でB29爆撃機に立ち向かおうとした、どっかの国民のようではないか。」

大局を俯瞰するのは日本が歴史的に苦手とすることだ。もともとエネルギー効率の良い日本がCO2排出量を6%削減したところで、世界の排出量においては誤差の範囲程度の小さな規模に過ぎない、とか、そもそも地球温暖化は自然の周期であって人間の活動と無関係という説もある。現在推進されている環境問題の意識や環境教育の方向性は、政治経済のパワーゲームの産物であり、いま一度各自が見直す必要があるのだ。

善意が悪い影響を及ぼすケースもあるという。たとえばリサイクル品の輸出である。環境に優しく、困っている人を助ける援助にもなるはずだったこの行為が、被援助国では大迷惑となっているそうだ。

「その彼らにとって、日本でリサイクル品が余り、それが「援助」というような美しい言葉で送られてくることが最も怖いことだったのだ。実際に、駅前の放置自転車が大量に「援助」された国では自転車屋が破綻し、衣類や毛布が「援助」された国では工業化に向かう最初のステップである繊維産業が破綻した。「援助」で安く輸出することは、その国の同業種を破綻させるのだ。」

環境問題は複雑な社会や科学の問題であり、何が本当なのかは現段階ではわからない部分が多い。しかし、今起きていることをのうち、明らかに間違っていることや、無意味なことを再考していくことはできる。昨今の環境異論反論本はそうしたオルタナティブ視点を提供してくれるので有益と思う。

「たった一つの巨大な解決策」ではなく30万人規模のコミュニティで内部の問題を解決していくような分散的な解決の枠組みが必要などの著者の提言もあった。これはよさそうだな。

・足もとの自然から始めよう
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-939.html


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3月22日に超環境イベントをやります。参加者受付中です。よろしくお願いします。

ネットコミュニティ「オーバルリンク」が、今年も公開トークライブを開催します。今年のテーマは"ハイパーグリーン"。私はこの団体の理事なのですが、第一部に出演することになりました。情報問題と環境問題に関心のある方のご参加をお待ちしております。

■オーバルリンク公開トークライブ2009
http://blog.ovallink.jp/index.html
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増殖する[緑]の覇権を撃て!
『 HYPER GREEN 』
複雑系のインターネットから生態系の未来へ
from the internet as complex system to the earth as cybernetic organism

HYPER GREENは、単にトレンド的な環境保全を示すキーワードではない。
これは、情報環境から政治経済の施策までをも含む包括した視座から今問われる
「GREEN」の本質を語ることで、思考停止のエコロジー気分を超える試み。

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■開催日時

2009年3月22日(日) 14時~

■場所

スタジアムプレイス青山イベントホール
http://www.visioncenter.jp/aoyama/access/index.html

■構成

Session1:『情報環境からの創発』橋本大也+上田壮一(出演調整中)

Session2:『環境問題の問題』池田清彦+橋本大也

Session3:『運動する緑』ハセベケン+池田清彦

Session4:『生活を再考する』上田壮一(出演調整中)+ハセベケン

オーガナイズ:前田邦宏+久野木吉蔵

18:00から懇親会を開きます。

■話題提供者

橋本大也(データセクション株式会社 代表/オーバルリンク 理事)
http://www.datasection.co.jp/
http://www.ringolab.com/note/daiya/

池田清彦(早稲田大学国際教養学部 教授)
http://www.waseda.jp/sils/jp/about/faculty/ikeda_kiyohiko.html

ハセベケン(渋谷区議会 議員)
http://www.hasebeken.net/index.html

上田壮一(Think the Earthプロジェクト プロデューサー/スペースポート代
表)=出演調整中
http://www.thinktheearth.net/jp/about/aboutus.html
http://www.spaceport.co.jp/index_j.html


■参加費(当日、会場でお支払ください)

5000円(オーバルリンク会員は3000円)

懇親会:3000円

※オーバルリンク会員ではない方で懇親会まで参加された方は、オーバルリンク
の入会金4000円を免除させていただきます。

■お申し込み : 下記あてメールでお申し込みください。

  info08@ovallink.jp

・足もとの自然から始めよう
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子供達の環境教育に投じられた一石。

「"環境保護的に正しい"とされるカリキュラムは、現在進行している悲惨な事態を目の当たりにすれば、子どもたちのなかに現状を変えていこうという意志が育つにちがいないという思い込みの下に進められている。しかし、実際にはこうした悲惨なイメージというものは、自己、そして時間と場所の感覚を形成する途上にある幼い子どもに対して、始末におえない、悪夢のような影響を与えている。」

著者は、熱帯雨林の破壊、オゾン層破壊、地球温暖化、絶滅危惧種の問題などの複雑な環境問題を、あまりに早い時期に子どもに教えようとするのは逆効果であるという。破壊された環境や殺された動物の映像を見せる前に、まず自然を好きになるような機会を用意すべきだと説く。

子どもの地理的、概念的な視野を超えた複雑さは、彼らに混乱を与えて自然に対する恐怖症を植え付けてしまったり、偽善的なうわべだけの環境意識を持たせることになる。年齢に応じた学習プログラムが大事であるとし、著者らの開発した具体的な活動案が提示される。それは、

1 子ども期初期には自然界に共感する心を励まし
2 中期には"秘密基地"遊びなどで探検する心を優先させ
3 思春期の初期には社会的な活動に参加させる

というもの。「4年生まで悲劇はなし」。ある程度の広い視野を子供達が獲得するまでは環境破壊の怖さはできるかぎり見せないでおく。まず自然に対する好奇心や愛情(動物が可愛いなど)を育むプログラムになっている。

「環境活動にかかわっていく本物の姿勢というものは、まず自分で管理できる狭い場所での経験から生まれるものだ」

で、これは本来は小学4年生までの児童の教育について問題を指摘しているわけだけれども大人だって同じかもしれない。好きだから守るのが自然な流れであって、世界の大問題だから守るというのでは動機づけとして弱い。地球温暖化や生物多様性など抽象度が高い環境問題を無理に考える前に、大人もまた「足もとの自然」を大事にするようになれば、結果として環境保護というのは解決に向かうのではないか、と思った。

「愛のない知識が根をはることはない。しかし、初めに愛があれば、知識は必ずついてくる」ジョン・ブラフという人の言葉が印象的。

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