Books-Misc: 2006年5月アーカイブ

・SAS特殊任務―対革命戦ウィング副指揮官の戦闘記録
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圧倒的なドキュメンタリである。文句のつけようのない傑作。今年読んだ本のベスト10には入ることになるだろう。(出版は2000年だが)。

著者のギャズ・ハンターは、陸軍からSAS(イギリス陸軍特殊空挺部隊)に志願入隊し、20年間勤務して、ノンキャリア最高位とされる一等准尉にまで上り詰めた筋金入りの特殊部隊員である。他の隊員たちからも「敵にまわしたくない人物」として恐れられているという。その理由はこの本を読めばわかる気がする。たとえていうなら、生きたゴルゴ13なのである。

その半生において、北アイルランドの対IRA戦、コロンビアの麻薬撲滅作戦、ザイール内戦での英国大使館警護、東ドイツでのスパイ作戦、米国でのカルト教団篭城事件、シエラレオネでの人質救出作戦、そして本書のクライマックスであるアフガン戦争など、幾多の死線をくぐりぬけてきた。

過酷な訓練、戦闘の恐怖、戦慄の殺人、残酷な拷問、非情な現場判断、突入の緊張感、九死に一生の瞬間、チームの連帯感、統率者の孤独、別れ、戦士のつかの間の休息。生々しいシーンの描写が卓越した文章力をもって語られる。ぐいぐい引き込まれると同時に眼をそむけたくなる行もある。映像以上にリアリティを感じさせる本だ。

やんちゃな子供時代から、そうなるべくして陸軍に入り、厳しい試練を乗り越えてのSASへの入隊、そして20年間の特殊部隊での職業生活。一兵卒から指揮官へとのぼりつめる一人の男の自伝としても興味深く読める。著者はリーダーとはどうあるべきかを禁欲的に追い求め、自分をその型に押し込めて生きている。使命のためにすべてを投げ出す生き様は、最初は共感も覚えたが、読み進むにつれ、畏怖へと印象が変わった。優秀なリーダーであると同時に、優秀すぎて、恐ろしい人物であると思う。テロと戦う舞台に彼がいるのは頼もしいが、友人にはなりたくない、という印象だ。

経営の意思決定や組織のリーダーシップのありかたを考える上でも参考になる一冊であると思う。読み物として最高に面白いので、自分の知らない世界を知りたいというだけの読者にもおすすめ。現実は小説を超えている。

・戦争における「人殺し」の心理学
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004370.html

・NYPD No.1ネゴシエーター最強の交渉術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003031.html

・感動戦争ドラマ バンド・オブ・ブラザース
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003885.html

・情報と国家―収集・分析・評価の落とし穴
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002795.html

・自爆テロリストの正体
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004147.html

・滅びゆく国家 日本はどこへ向かうのか
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立花隆の日経BPサイトの大人気の連載を書籍化した一冊。

・立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/

この連載は毎回かなりの長文なので紙の方が読みやすくなった。

小泉改革、天皇制、新憲法、中国問題、防衛問題、ライブドア事件、耐震構造偽装事件など、時事問題に対して果敢にリアルタイムに論評を加えていく。各テーマについて調べる時間は少なかったはずである。

総選挙前の自民大敗の予想は見事にはずれたし、IT業界についてはよくご存知でないのかもと感じる論評もあるのだけれど「立花隆だったらどう考えるか」がこの本の読みどころなのだと思う。

不完全な情報の断片から、想像力を発揮して、物事の本質らしきものを構成していく。それが事実や真実とは違っていても、それなりの説得力を持つ文章としてアウトプットする。時事問題へのコメントだから一層、立花隆のモノの見方、思考法がこの本から見えてくる気がした。

著者は幅広い分野で本を書き「知の巨人」と呼ばれてきた。彼のような、万能の評論家というポジションは、ネット時代にはとても難しい立ち位置だろうと思う。一方的に投げかけられるマスメディアとは異なり、あらゆる分野の専門家や当事者と同じ土俵で発言しなければならないからだ。過去の発言も容易に検索され、反論や批判の材料にされてしまう。

地位も名声も築いたのだから書籍やテレビの権威の仕事で十分なはずだが、敢えてネットで論陣を張るのが、根っからの論客なのだなと尊敬してしまう。この本には、はずれた予想や、当初の誤認識も、意図的に直さず掲載したと自ら述べている。これもなんだかネット的である。

小泉批判、天皇制、靖国問題に関する章が多いが、以下のようなライブドアやメディア論の章の方が個人的には面白かった。専門家というより、一ユーザとしてこうなるんじゃないか、こうあるべきなんじゃないか、こういうのが面白いじゃないかとのびのび書いている。ブログ的なのである。

毎週愛読中。この先も長く読みたいサイト。

・第68回 ネット時代に直面する問題にテレビ、新聞はどう向き合うか - nikkeibp.jp - 立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/060227_net/

・第43回 車社会アメリカが切り開くiPod&ネットの近未来 - nikkeibp.jp - 立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/050825_ipod/

・第42回 ザ・タイムズ紙の豹変に新聞の来るべき未来を見た! - nikkeibp.jp - 立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/050825_shinbun/

・第32回 IT後進国の旗を振る民放、NHK ネットと放送の融合に待ったなし! - nikkeibp.jp - 立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/050728_nettv/