Books-Sociology: 2007年6月アーカイブ

・私たちはどうつながっているのか ネットワークの科学を応用する
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人脈ネットワークの研究成果を一般向けにわかりやすくまとめた入門書。

ネットワークの研究によって、一般的な人脈は、(1)スモールワールド(世界中の人間は結構少ない人数(6人とか)で全員がつながっている)、(2)スケールフリー(知り合いの数は人にだいぶよって違い、少ない数のハブ型人間に集中している)という二つの特性を持つことがわかってきた。これはミクシイなどを使っていて、研究者でなくても、実感できるようになったと思う。

では、そうしたネットワークはどんな風に生成されるのだろうか、ハブ型人間になる方法とは、現実社会の人脈作りに活かす教訓は何か?。図をたくさん使った理論の概説と、現実の人間関係の考察がこの本の内容である。

たとえばこんな理論が解説されている。

・弱い紐帯の理論
いつもはあまり密接につながっていない知人を通して、有用な情報がもたらされるという理論。異なる環境にいて、異なる価値観を持ち、関係も深くはない友人知人が、普段と違った貴重な情報や関係接点をもたらす。

・構造的空隙の理論
今まで縁のなかったコミュニティ同士をつなぐ「重複のないコンタクト」のこと。知人のクラスタ間を結びつける人は、知人の数が少なくても、ネットワーク構造上で重要な役割を果たす。

・信頼の解き放ちの理論
赤の他人を信頼できるかどうか(一般的信頼)の度合いが高い社会では、離れたコミュニティにいる者同士が、近道を作って情報交換をすることが容易になる。内輪びいきの安心を大切にする日本より、初対面の相手を見極めつつ信頼するアメリカの方が、人間同士の距離を短く詰めやすい。

・BAモデルの理論
新たな構成員が増え続けて成長していくネットワークのモデルの一つ。人は強いものに魅かれやすい。「この人は有力だからつながっていこう」という心理によって、新規参加者は既に知り合いの多い人を優先選択する。その結果、少数のハブ型人間が一層影響力を強めて、スケールフリーの性質を強くしていく。


ネットワークの研究はどうしてもハブにばかり目が行きがちだが、ネットワーク内のクラスター(少ない人数の密なコミュニティ、数人の仲良し)の重要性について著者は強調している。クラスターは安心を提供すると同時に柔軟性をネットワークに与える。

全員がハブ型人間を目指して、知り合いの数を重複なく効率的に増やしていくと「共通の知人が少ない」ために変化に弱いネットワークになりかねない。会社でいえば「意思疎通がうまくいかない」「人が抜けたら控えがいない」という状況になってしまう。お互いが心配しあうような少人数の仲良し関係は、個人の心の生活を豊かにするだけでなく、ネットワークの頑健性を高めるものにもなる。

うまくいっている会社には、楽しい社外サークルや飲み会グループがあるものだが、小さなコミュニティ活動が、会社がうまくいっていることの理由である可能性もあるのだな、と思った。

そして、ハブ型人間になるには、能力(人は強いものに魅かれる)、先住(早いうちにネットワークに入ること)、運(ネットワーク形成をやり直したらとハブは今とは別の人かもしれない)の3要素が重要だそうである。

能力と運はともかく先住性は取り組みやすい。先住性は自分でネットワークを立ち上げれば一番目の住人になれる。インターネット上ならコミュニティの立ち上げは容易だ。ただし、外向きの矢印を増やすハブ型人間は、たくさん張った枝の維持コストも半端ではないから気をつけないといけないというアドバイスも書かれてあった。

むやみに人間関係を拡大しようと必死な人は、アテンションは集められても、レスペクトが集まらないのではないかと感じる。人間関係の数と方向性の他に、関係の質というものがあると思う。まだまだこの分野は研究の可能性がたくさんありそう。

・つながりの科学―パーコレーション
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000406.html

・人脈作りの科学―「人と人との関係」に隠された力を探る
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002338.html