Books-Education: 2011年6月アーカイブ

・日本のすがた 2011―日本国勢図会ジュニア版 表とグラフでみる 日本をもっと知るための社会科資料集
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世の中全体が日本再生を考えるムードですが、まず日本の基本的なすがたを俯瞰することが重要であると思います。

この本は小学校高学年から中学生を対象にした社会科資料集。日本の産業、経済、社会の各分野の基本的な成り立ちと現在のすがたをデータで示します。小学生の学ぶ情報ではあるのですが、不勉強な私は結構な再発見、再認識がありました。

たとえば、

1 農業就業人口の平均年齢は66歳

農業就業人口は1955年から2005年までの50年間で5分の1の261万人にまで減りました。驚くべきはその年齢構成で、65歳以上が全体の62%を占めて、平均年齢で66歳になるという事実。就業人口は減り続けており、少数ながらあらたに農家を始めた人も、半数が60歳以上という状況。

2 日本の国土は70%が森林におおわれています

そんなに広かったかと思いました。3分の2が針葉樹で3分の1が広葉樹。輸入木材におされて価格下落し伐っても採算がとれない状況。国土の7割が有効に使われていないという見方もできます。どうしましょうか。

3 2008年に世界で生産されたパソコンのうち97%は中国製

グラフを見ると2000年くらいから中国が急激な成長カーブを描いて、他国を抜き去りました。2008年時点で中国2.7億台、日本780万台。日本製のパソコンはもはや激レアなのですか、私使ってますが...。

4 1950年、発電エネルギー源は水力81.7%、火力18.3%だった

今話題のエネルギー源ですが過去を振り返ると60年前は水力が圧倒していたのですね。1960年になると水力と火力が半々になり、1980年代にやっと原子力が10%を超えて登場します。2009年では水力7.5%、火力66.7%、原子力25.1%。火力の6割台という数字は80年くらいから大きくは変わっていなくて、水力が減った分、原子力が増えたという構図。

小中学生向けの参考書なのに、メモをいっぱいとって、考え込んでしまいました。

専門家の解説よりも前に、事実をみて、ひとりで考えてみることができる大人にも勉強になる本です。

しかし、なんで表紙がiPadなんだろう。内容はまったく関係ないのですが...。

・こんなに違う!世界の性教育
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「人と人との基本的な関係を教える性教育には、その国で国民一人ひとりがどう扱われているかが投影されます。また、きれいごとでは済まされない、その国の背負ってきた歴史や切実な現実も反映されています。つまり、ある国の性教育を見れば、その国の歴史や文化、社会のなりたちなどが透けて見えてくるのです。」

アメリカ、オランダ、フィンランド、イギリス、ドイツ、オーストラリア、カナダ、タイ、中国、韓国、日本。各国の性教育に詳しい日本人研究者が一章を担当して丁寧に執筆している。各国の性教育の教材、教科書も紹介される。

世界の性教育の先進国はオランダである。5歳から性教育を学校で教える。同性愛と結婚、ドラッグ、尊厳死、セックスワーカー。オランダはこれらすべてを合法化した自由の国。だが透明化して、情報をきちんと与えることで、10代少女の出産・中絶率、マリファナ使用率も実は低い。超早期の性教育は「寝た子を起こす」にはならなかった。

性教育はお国柄が表れる。推進派と反対派がぶつかるイギリスでは性教育は義務にも関わらず親が授業を退席させる権利を持つ。ドイツには東西格差がある。禁欲教育をめぐり揺れるアメリカ。オーストラリアではインターネットサイトが性教育をサポートする。中国では専門誌「人之初」が国民的人気。マイノリティに優しいカナダでは性の多様性教育に力を入れる。

HIV大国でもあるタイはコンドームキャンペーンが有名だが、エイズ予防キャンペーンで実施した「水の交換」もわかりやすいワークショップだ。参加者数と同じ数だけ水の入ったカップを用意し、そのうちの2つだけに無色透明の水酸化ナトリウムを入れておく。これがHIVウィルスの代わりだ。そして皆でカップを手に持って3人の相手と数滴だけ水を交換する。フェノールフタレインをたらすと水酸化ナトリウムが入ったカップの水は赤くなる。ほんのわずかな回数の交換でHIV感染が全体に広まっていくリスクを実感できる。

日本は性教育ではどちらかというと遅れている国だ。ヨーロッパ諸国の15歳の性交経験率は男子平均30%、女子24%だが、日本では男子7.2%、女子9.4%と遅いからということもあるだろうし、同性愛や性同一性障害に対する認知の低さも原因にあるようだ。中学校での性教育の時間は保健の授業内でたった3時間しかない。そういえば私もあまり受けた記憶がないのだ。

日本は貧しい性教育にも関わらず、中絶やHIV感染はさほど社会的な問題となっていない。メディアを通した接触でどうにかこうにか中学高校あたりで独習しているということなのだろうか。同性愛者の受容度は高いとは言えないあたりが問題といえば問題ですかね。