Books-Economy: 2004年11月アーカイブ

中国経済 超えられない八つの難題 「当代中国研究」論文選
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著名中国経済学者が投稿する米国発行の学会誌「当代中国研究」から選りすぐりの投稿論文を集めた本。言論の自由が制限されているため、一度、海外の学会誌を経由しないと、本当のことが書けないという現状が冒頭で嘆かれている。

中国は毎年7%、8%のGDP成長率を達成していると発表されている。これが中国の経済成長への期待の核心にあることは間違いない。だが、いきなり、この本では高成長率はまやかしであるという意見が展開されている。7、8%というのは数字ではなくて高成長していなければならないという意味の「記号」に過ぎないと書かれている。

そもそもこの数字は高成長必須という国家政策の圧力のもとで、各地方が実態よりも大きい数字を報告して合算した結果なのだと指摘がある。特に製造業の数字は調査で検証しやすいが、サービス業の数字については虚偽報告がばれにくい。国家統計局もある程度水増しを見抜いて計算するものの、まだまだ水分の多い数字であるというのだ。

また、この国の成長率は確かに高いようだが、不完全な市場経済国家と他の先進諸国の成長率を並べて比べるべきではないという学者もいる。彼らによると中国の経済成長率7,8%は先進諸国の3%成長と同レベル。つまり、普通の経済成長が維持できる最低限のレベルと同じ水準でしかないという。

現在、2008年の上海オリンピック、2010年の万国博が国家的プロジェクトとして経済の牽引力となっているが、過去の大型イベントの後に経済が落ち込んだ開催都市が多い事実もあるそうで、2010年以降の中国経済は破綻の可能性さえ見え隠れするという学者もいた。
株式市場では企業の虚偽報告がまかり通っており、投資では特定利益集団が形成され、株価操作が日常的に行われている様が報告される。いわゆる仕手筋の存在なのだが、これなしには市場が存在し得ないくらい大きな役割を果たしている。一般投資家は仕手筋につながって踊ることでおこぼれをもらう。このようなカジノ市場では長期投資はほとんどなく、短期の投機ばかりになる。

投資バブルの一方で内需や雇用が逆に低迷していることはたくさんの学者が指摘している。世界の工場から世界の消費の中心へ変貌するというのが中国経済のバラ色の未来イメージなわけだが、このままでは消費は増えてはいかない。

都市部と農村部の経済格差がこの本でも強く指摘されている。統計上は平均すると高成長でも、その恩恵を受けているのは政策上優遇された都市部のエリートのみであって、農村部はいまだ前時代的な経済水準にある。人口の7割を占める農民だが広い国土に分散しており、教育水準の低さや組織力のなさにより、都市住民と比較して政治的な声を持たないのも原因だという。彼らの所得が上がらないため消費は伸びず、内需は一向に拡大しないわけである。

話を総合すると一部のエリート層が利益形成を活発に行っており、不動産市場と株式市場のバブルが全体を強烈に牽引している、いびつな全体構造が浮かんでくる。この状況は海外投資家にとって、コネ(関係)と情報を持っているなら短期で買いだし、長期では逃げろというのが正しい戦略といえるだろう。

中国は経済の外部にこそ正常な成長モデルへの転進の鍵がありそうだ。基本は政治と密接に結びついた統制経済であるから、部分的な市場経済部分だけを見て判断してはこの国は正しく見ることができない。この論文誌が海外でしか発行できない理由であるとか、貧困にあえぐ農村部の実態などに、どう中央政府が改革を行えるかが、長期的展望を決めていくことになる。

この本の内容は真実なのか、それも実は分からないのが悩ましい。一流の経済学者による論文であることは確かなようだし、中国内では政府発表を真っ向から否定する意見は出版されない。少なくとも中国の急成長は目に見える部分は本当だろうが、何十年に渡って急成長を続けるという国家の予測は根拠がないだろう。どちらにも真実と嘘がありそうだ。
両者の意見をバランスを取りながら、自分なりの中国経済観をつくるために、おすすめの一冊。

眠れる獅子は本当に起きたのだろうか?。

・Passion For The Future: 中国人の心理と行動
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002517.html

・Passion For The Future: 中国経済大予測
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002482.html

中国経済大予測
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中国経済について白紙から短期間で学習する必要があり、とっかかりに買ってみた本。最初に読む本としては大正解だったかもしれない。中国経済の本はたくさん本屋に並んでいるのだが、どれも著者独自のミクロ視点が売り物であって、基礎知識のない私には全体像を読む解くのが難しかった。この本はマクロ視点で中国経済の現状説明と未来予測が、多数の統計、グラフを用いながら49項目に分けられて説明されていく。

著者は第一生命経済研究所経済調査部主任アナリスト(海外経済担当)。全般的に数字の分析主体の調査報告書であり、現地に入ったら実態がどうでしたとか、誰々さんはこんなことを言っている、というミクロな話はほとんどない。その代わり、各項目でよく選ばれたデータを軸に、この要素はGDPに何パーセント影響する、ここ数年の動きはこうなっている、日本と比較するとこうだ、という私が欲しい情報が集められていた。

この本では中国経済は2010までは毎年7%以上の高成長率が続くと予測されている。2008年に北京オリンピック、2010年に上海万博があり、それが大きな牽引力となるからだが、それ以降は鈍化する可能性が大きいとされている。

問題は投資主導の高成長が続いていること。2003年度で固定資産投資の伸びが前年比30%増に対して、GDPの半分を占める個人消費は10%増にとどまっている。このままでは需給バランスが崩れてインフレ、デフレも懸念されている。

しかし、市場の大きさとその潜在は他国と比べ物にならない。13億人の国のことなのでとにかく数字が大きくて唖然とする。今は安くモノを作っている国という印象があるが、10年以内に世界消費の主役となることは間違いないようだ。

気になった情報メモ:

・高い経済成長率と低い株価
決算虚偽報告の蔓延による、株式市場に対する投資家の不信が主要因とされている。

・巨大な潜在市場
既にビールは米国を抜き世界最大市場でこのまま拡大。自動車は2010年に400万台を突破。2010年に携帯電話ユーザ8億人。

・家電業界でベトナムへの工場移転進む
沿岸部の所得増大により人件費の割安感が減る。安い労働力のある内陸部へ移転すると輸送コストがかさむために南のベトナムへ移転するということ。

・香港国内観光が爆発的に増大、儲かっている観光産業
香港への個人旅行解禁。リピータ率高い。個人観光客の5割以上が2,3ヶ月に一度訪問する。大半はブランド高額商品のショッピングをする。2005年末に香港ディズニーランド開園予定で中国人の60%が興味を持っているという。

・都市部と農村部の所得格差は3.2倍
実際にはもっと大きく世界最悪との説もある。都市部で外資企業勤務が高所得。

・国有企業の人材流出
給与が1.4倍高い民間、外資系企業へ転職進む。40台で有能な管理職が流出の中心で、1998年から2003年の間に国有企業の10%以上の人数が離職している。

・日本より急速に進む高齢化と男性結婚難
一人っ子政策の効果がありすぎて人口ピラミッド崩壊。2000年時点では65歳以上人口は6.8%に過ぎないが、2040年には21.8%(5人に1人)に達する猛スピードの高齢化。一人っ子政策で女子が密かに間引きされたようで、2000年の新生児の男女比が118:100になっている(世界平均105:100)。地域ではさらに顕著。9歳未満では男子が1200万人以上も多く、結婚であぶれてしまう。

・BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の経済は2035年にG7の規模を超える
中国はそれまでにG7入りしてしまいそうだが、とにかくこの4カ国の成長振りは目覚しいようだ。2000ねんん時点ではBRICs:G7は10:1だが、これが逆転するという。

・2010年には日本の最大輸出国に
2000年時点では6.8%だが2015年には29.8%に増加と予測。というわけでビジネスをしている限り中国とのつきあいは米国以上に増えることになりそう。私の息子は英語より中国語ができたほうが良いのかもしれない?


他にもメモしきれないたくさんの情報を得た。さて、だいたい背景が分かったので、ミクロな本も読んでみよう。