Books-Misc: 2009年9月アーカイブ

・ビートルズから始まるロック名盤
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私は60~70年代のロックが大好きだ。この本は1964年の『ミート・ザ・ビートルズ』から1969年の『アビー・ロード』までの5年間の中から、ロックの名盤50枚を選び、録音または発売順で並べた評論集。ロックがもっともおいしかった時代の濃縮ダイジェスト。

「事はそう単純なものではないかもしれないが、アメリカで生まれた「ロックンロール」が「ブルース」をたっぷり含んでイギリスに漂着、やがて「ブリティッシュ・ロック/ブルース」となり、それがビートルズによってアメリカに輸出されたことによって「ロック」が生まれたと規定するなら『ミート・ザ・ビートルズ』こそその幕を切って落としたアルバムといっていいだろう。」

ビートルズ『ミート・ザ・ビートルズ』
ビーチ・ボーイズ『オール・サマー・ロング』
デイヴ・クラーク・ファイヴ『ザ・ヒッツ』
アニマルズ『シングル・EP・コレクション』
ヤードバーズ『ファイヴ・ライヴ・ヤードバーズ』
ボブ・ディラン『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』
ベンチャーズ『ベンチャーズ・イン・ジャパン』
バーズ『ミスター・タンブリン・マン』
ポール・バターフィールド・ブルース・バンド『ポール・バターフィールド・ブルース・バンド』
ラヴィン・スプーンフル『魔法を信じるかい?』
ほか。

ロックファンにはおなじみの定番ラインナップの中に、著者の趣味が隠し味的に混入する。初心者はガイドブック情報として受け取り、マニアは趣味の部分を議論のネタづくりのために読むことができる。

個人的には音楽評論の文章術研究資料としても参考になった。対象への想い、熱さをどう表現するのか。アーティストが好きです、愛してますと書いたって伝わるわけがない。たとえばボブ・ディランの『追憶のハイウェイ61』のイントロを語る部分。

「いってみれば「たんなるスネア・ドラムの一打にすぎない、しかしその一打は、時代に投げかける大きな疑問符のように聴こえることもあれば、歓喜の感嘆符として響くこともある。このディランのセッションが初のロック担当となったエンジニア、ロイ・ハリーが施したエコーも絶大な効果を上げている。さらにこの一打は、時代に打たれた句読点でもあり、その瞬間、時代は半ば強引に改行を余儀なくされたように思う。」」

イントロのスネアドラム一打でこれだけ語れる。蘊蓄やデータも提示しながら。個人的にはここで紹介されるアルバムの大半は保有しているか、聴いたことがあるものだったが、紹介文の視点がいいので、楽しみながら読めた。

ちなみにこの文庫本を買ったのは池袋駅のホームだった。文庫本の自動販売機という珍しいものを発見して、ついつい何か買ってみたくなったのが購入動機。ちょうどこの本は、1アルバムを数ページで語るので、電車でちょっとずつ読むのにも向いていたなあ。

朝日新聞では2007年に記事になっていた。

・本の自動販売機、キオスクで人気 首都圏JR5駅
http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY200712190101.html
「人気があるのは女性向けの軽めのエッセー。自販機では女性の利用者が多くなり、20~30代が中心という。恵比寿駅なら月に450冊、約20万円と予想以上の売り上げ。 」

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池袋駅の写真。もっと増えると良いなあ。

ちくま書房のつげ義春コレクション 全9巻から2冊読んだ。

・つげ義春コレクション ちくま書房
http://www.chikumashobo.co.jp/special/tsugeyoshiharu/

「この全集は全作品を収録したものではなく、初期の貸本時代の作の大半は除いてある。全作をまとめるのは量的に難しいだけでなく、稚拙で未熟な過去を晒すのは気がすすまぬからである。が、旧作は目にする機会が少いとのことで一部をここに収めたが、粗末な作であるのは生活苦による乱作のためばかりではなく、マンガ全般のレベルが低かった時代でもあり、その点を酌量して戴ければ幸いである。後期の作に関しては弁解するところはない」と著者が書いているが、個人的には初期の粗っぽい絵から作家の原点が見られる気がして、楽しめた。

・ねじ式/夜が掴む
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稚拙未熟と本人がいいそうな「外のふくらみ」(ねじ式/夜が掴む収録)がとても好きだ。開けた窓から外のふくらみが室内へ入り込もうとするというシュールなネタで、線も極めてシンプルに省略されており、「紅い花」系の旅モノとはまったく違う、しかし、どこか繋がっている、つげらしさがある。本人談話ではこれは失敗作らしいのだが。

逆に有名作「ねじ式」はやりたいことはわかるんだけれども、シンボリズムや抽象化などインテリ技法のにおいがぷんぷんしており、稚拙に感じられた。

・紅い花/やなぎ屋主人
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こちらは有名な旅行物中心の巻である。幻想的な「紅い花」はやはり大傑作。漫画のネタを探すという名目で日本各地の温泉宿を貧乏旅行し、出会った人々とのエピソードを描く。すべてを投げ出して地方の温泉宿を巡るというのは、都会での仕事や生活に縛られた現代人にとっては、少し羨ましい気もするあてどなさである。

・ペルセポリスI イランの少女マルジ
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この漫画は素晴らしい。内容も絵柄も強いカルチャーショックを受けた。日本からは物理的にも精神的にも遠いイスラーム社会の空気、生活感が、漫画という慣れ親しんだメディアによってちゃんと伝わってきた。

1979年のイランのイスラーム革命とイラン・イラク戦争という激動の時代を、テヘランに暮らす少女マルジ(6歳から14歳まで)の視点で描いた漫画。著者の自伝である。マルジは次第に宗教色が強められていく革命情勢下にあって、反対デモに参加する進歩的思想を持った両親の下で育てられている。当時のイラン女性としては珍しく欧米風な考え方を身につけていった。

宗教革命によって自由な言論と女性の権利はますます失われていく。抑圧的な世の中や不合理な出来事に対して少女なりに疑問を持ち、怒り、そして悲しむ日々。少女ならではのささやかな心の中の抵抗が漫画の主要な内容だ。だが、大人のあからさまな抵抗は死を意味する。弾圧により友人や親戚が拷問にかけられたり、処刑されたりしていくのを、少女は目の当たりにするようになる。

革命があって戦争があってということは描かれるが、当時の政治背景の詳細はほとんど説明されない。だが、少女が目にしたもの、体験したことを通して、どういう時代であったのかが、しっかりと伝わってくる。日本の漫画にはない独特の絵も魅力だ。明確な輪郭線とベタ塗りの画風は、抑制された感情生活を淡々と描く内容と見事にマッチした。


・ペルセポリス
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この漫画は映画化されている。2007年カンヌ映画祭審査員賞受賞映画『ペルセポリス』。

・テヘランでロリータを読む
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/12/post-498.html

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