Books-Economy: 2010年8月アーカイブ

・情報楽園会社
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『情報楽園会社 TSUTAYAの創業とディレクTVの起業』(徳間書店刊・1996年)に加筆して復刊。カルチュア・コンビニエンス・クラブ社長の増田宗昭氏が語るCCC成功の原点。14年前の本であるが、現代のネットビジネス文脈でも活かせる知恵が書かれている。

前半のTSUTAYA創業の回想録では、増田社長がドキドキしながら、一店舗目を開業した思い出を語る。当時の小さな店舗の写真や、手書きの企画書が、千里の道も一歩からだったのだなあと思わせる。

当時、自分が何を考えていたかが語られる。増田流はとにかくわかりやすい。たとえばコア事業のレンタルビジネスの説明。

「レンタル業とは、一言でいってしまえば金融業である。八百円で仕入れたCDが、レンタル料金百五十円を生む。このレンタル料金百五十円の実態は、金利に他ならない。なぜならお客さんに貸し出されたCDそのものは、翌日に返却され、また次の人に貸し出されて、店の手元に一日分の利子としての百五十円が残る仕組みだからである。お客さんが払う百五十円は、利率になおすと二十%弱になる。しかもこれは一日である。銀行はおよそ年間四パーセントの金利だから、レンタル業のコストと収入の関係は一日で銀行の五倍、年間にして銀行の千八百倍くらいになる。」

だから、CCCは急成長したのか、と納得。そしてビジネスモデルもさることながら、増田社長の企画力重視の姿勢が印象的だ。マルチメディア時代に生き残れるのは、もはや企画会社だけであるとして、その組織の条件を3つ挙げている。

1 情報の共有化
2 個人のプログラムの強化
3 インセンティブシステムの導入

優秀な企画は個人の発想からしか生まれない、と断言する。もちろん自身がその筆頭なのだろう。組織よりも個人を重視して、社員一人一人を独立した経営者としてみなし、それをサポートするのが会社なのだという。

復刊にあたって、「2010年、新しい「楽園」づくり」という章が追加されている。おもにディレクTVの失敗で学んだことの総括である。天才経営者は一度の失敗から、より多くを学ぶのだなあ。

CCC、TSUTAYAに興味がある人は読むとよさそう。

・トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか
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「上質さと手軽さ、どちらも秀逸ではない商品やサービスは、「不毛地帯」に追いやられかねない。消費者にどっちつかずの経験しか提供できないのだ。不毛地帯には冷めた空気が充満している。そこそこの質の商品やサービスは誰の心をも揺り動かさず、何となく手に入りやすいというにすぎない。<中略>商品やサービスは、テクノロジーの発展に見合った改善がなされないかぎり、広がりゆく不毛地帯に呑み込まれる運命にあるだろう。」
グローバル化と情報化の進展によってプロダクトのライフサイクルはかつてよりも短くなっている。ヒット商品もほうっておくとすぐに不毛地帯に追いやられて、売れなくなる。クロックスのシューズ、スターバックスのコーヒー、COACHのバッグなどが、大成功して大失敗した事例として挙げられている。こうしたブランドが陳腐化したのと同じように、iPhoneも放っておけば危うい、とも。

上質さか手軽さか。ポジショニングの戦略で重要なのは、どちらかを潔く捨てることだというのが著者の結論である。上質でかつ手軽という、いいとこどりもまた失敗の原因になるというのだ。たとえばCOACHやティファニーが一時目指した上質で手軽なブランドをこう批判する。

「上質か手軽かの二者択一というコンセプトが示すように、「マス・ラグジュアリー」は砂上の楼閣にすぎない。マスとは手軽であり、ラグジュアリーとは上質である。この二つは共存できない。ラグジュアリーを謳ってはいても、誰もが手にできるならそれはありきたりな商品である。「マス・ラグジュアリー」とはじつのところ、一般の人々の期待水準を押し上げ、身の回りの商品やサービスの質的向上をもたらすものだ。こうなると、その成り立ちからしてもはやラグジュアリーの名には値しない。」

トレードオフを見切ること、陳腐化に対して次の手を打つこと、上質さとは経験、オーラ、個性の足し算で決まること。現代のグローバル市場でサバイブするための、ポジショニング戦略が簡潔にまとめられている。

本書にでてくる多数の米国のケースが参考になった。日本ではあまり知られていないブランド、商品が多数出てくるのだ。たとえば革新的な本屋のタッタードカバー、クレイマーブックス、ザ・ブックストール。1億台近く売れたという携帯Motorola RAZR。ラスベガスのホテル王スティーブ・ウィンなど。ちなみに著者によると、日本ではまだ先端的製品と思われているアマゾンの電子書籍デバイスのキンドルは終わっているらしい。何度もダメだししている。