Books-Misc: 2011年6月アーカイブ

高層難民

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・高層難民
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大震災が大都会を襲ったときに生じる「高層難民」「帰宅難民」「避難所難民」という震災の新しい顔について実態を解説した新書。

日本で高層建築が始まったのは、建築基準法で高さ制限が撤廃された1963年。高層ビルが立ち並ぶ東京は、関東大震災以来80年間、巨大地震に襲われていない。阪神淡路大震災は被害は甚大だったが規模はM7.3の直下型で短周期振動の「大地震」であって高層ビルの被害はほとんどなかった。だがM8級で高層建築の弱点である長周期振動を起こす巨大地震に見舞われた場合、高層ビルが大きな損壊をする可能性もあるという。

そしてエレベーター閉じ込めが30万件発生し、閉じ込め1万2500人以上が長時間、運が悪いと数日間も、エレベーターに閉じ込められたままになる。なんとか知恵を使って脱出すれば?いやいや。「エレベーター内に脱出口があると思っている方があるかもしれませんが、あれは映画の世界の話で、エレベーターのカゴに外側から中に入ることはできても、内側から外側に出ていくことはできません。」とのこと。

そして揺れが収まった後には長期間エレベーター、電気・水道が停止して生活が困難になる「高層難民」が発生する。5階以上のマンション住民は生活物資の調達に昇り降りさえ大変な困難が伴うことになる。水洗トイレタンクと冷蔵庫の製氷ボックスで合計10~12リットルの飲料水が貴重な水になる。カロリーメイトも常備しておきなさい、と。

そしてビルの外では、交通がストップしてオフィスから帰宅できない帰宅難民が大量発生する。東京駅(14万2000人)、渋谷駅(10万3000人)、新宿駅(9万1000人)、品川駅(8万9000人)、池袋駅(8万5000人)。こうした事態は東日本大震災でも現実になった。もしも大地震が直接首都圏を襲ったら1日後に540万人~700万人の避難者が発生し350万人~460万人の避難所生活者が出ると想定している。避難所の小中学校が崩壊することも予想されるため、避難所にさえ入れない避難所難民もでてきて街はあふれかえることになる。

こうした大都市の大震災直後の世界をシミュレーションして、個人や組織で取りうる対策を教えてくれる。なるほどと思うサバイバルのノウハウがいくつも見つかった。都市住民は必読の内容。おすすめ。

・東北・関東大地震。揺れる新宿の高層ビル 2011年3月11日

3.11 東北地方太平洋沖地震発生時の新宿高層ビル群(Earthquake in Japan)

・アメリカン・デモクラシーの逆説
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民主主義の共和国であると同時に世界に君臨する帝国、アメリカの抱える矛盾。

「もともと共和国は、啓蒙主義思想に基づく自治精神を基盤とするとともに、啓蒙主義の持つ普遍性・普遍化への意思を内包している。かたや、古典的帝国の特徴は「完結した一つの世界」として自らの統治を提示する態度にある。それゆえ、帝国の内部では民族・宗教・言語的な多様性について比較的寛容なのに対し、帝国の外部については、その存在を積極的に認めることはなく、しばしば制服や略奪の対象にすらなった。共和制と帝政では政体の主体がまったく異なることは自明だが、実は、動作原理そのものは類似している。」

ゲーテッド・コミュニティ、メガチャーチ、ストリート・ギャング、カラーライン、恐怖の文化、オーディット文化、...。自由市場と民主主義、多文化主義、個人主義が行きつくところにある歪みを著者は取り上げていく。日本人はいまだに米国に模範を求めがちだが、米国の抱える闇は深い。

オバマが大統領になれる多様性の国でありながら、いまだに肌の色は見えない壁をつくっている。全米では230万人、成人100人に1人が服役中であるという。収監者の7割は非白人で、人口の13%に過ぎない黒人が全体の半数を占めるという。黒人の3人に1人が生涯に一度は収監される計算になる。そして監獄の運営は民間に委託され巨大な獄産複合体を形成している。

個人主義や契約と訴訟の文化も社会に大きな弊害をもたらしている。

「アメリカでは幼い子どもが自らの親を告訴することも珍しくないが、結婚前に財産の割り振りや互いの義務、責任の所在などを事細かに取り決めする婚前契約書(prenuptial agreement)を交わすケースも1980年代以降増加している。これらは公的領域の論理と力学が私的領域を包摂していることを示唆する例であると同時に、アメリカの訴訟社会化と密接に結びついた現象でもある。」

多文化主義の原理主義化として少数民族の優遇政策の行きすぎ事例などが紹介されているが、要は米国と言うのは中庸という美徳を知らないのだ。この本では米国の主義や原理を追究しすぎるあまりに、人間が疎外されている様子を、いくつもの「逆説」にみることができる。

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