Books-Science: 2008年5月アーカイブ

・迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか
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これは抜群に面白い。

ガンや糖尿病など遺伝が関係する病気は数多い。なぜ人類は進化の過程でこうした病気をなくすことができなかったのか。進化とは有害な遺伝子を淘汰して、役に立つ遺伝子だけを残すという取捨選択のプロセスではなかったのか?。気鋭の進化医学者が進化の仕組みについての最新の科学的見解を披露する。

「ある時代での「進化による解決」は別の時代の「進化による問題」となりうる。とりわけ、進化によって体を適応させようとしてきた環境に、もはや住まなくなったという場合には。」

氷河期を生きた人類は寒さに対応するため水分を排除し糖分を蓄積する必要があった。高血糖ならば血が凍りにくいから厳寒期でも生存率が高まった。ところが気候が温暖化し、食料も豊富になると高血糖は生命に危険を及ぼす糖尿病として人類を悩ませることになった。現在の人類の遺伝が原因の疾病の多くが、ある時代を生き延びるための進化的解決の残存だったことが明かされる。

そして、人は病につぎつぎに侵されることで進化の早送りを行ってきたと著者は持論を展開している。

「人類のゲノムは、ある特定のレトロウィルスによって、別のレトロウィルスに感染しやすいように変えられた。ヴィラリアルによれば、アフリカの霊長類に「別のウィルスに延々と感染する」能力がついたことで、人類は進化の「早送り」ボタンを手に入れたのだという。他のレトロウィルスにさらされることで高速変異を可能にする機能だ。この能力のおかげで、僕たちはサルから人間へと一気に進化することができたというのだ。」

病気のウィルスと宿主の人間は相互に影響しあいながら共に高速に進化することができた。それは老化という現象でさえも同じである。人類は老化がプログラムされた寿命のある製品であると著者は市場にたとえている。製品寿命が有限だから、新商品が普及できるというたとえだ。

「第一に、この方法は新製品や改善版を市場に出す余地を生む。第二に、この方法はあなたに改善版を買わせることになる。アップル社は数年前にiPodを開発したとき、計画された旧式化の考え方を全面的に採用した。取替え不可能な内蔵電池の寿命を一年半ほどに設定しておいて、その電池が切れたら消費者に改善版の新モデルを買わせるというやり方だ。」

つまり、生物の寿命は自然淘汰による進化の速度を決定する。種の進化としては、古い世代が死んで新しい世代に入れ替わることこそ重要なのだ。人間が2倍長生きすると、進化は2倍遅くなる。だから進化によって不死身になることは、まったく期待できない話なのである。

病気の存在理由というユニークな観点から、人類の進化を斬新な切り口で語る。話題は横道も含めて好奇心を刺激するキーワードがたっぷりある。よくできた科学読み物。