Books-Culture: 2006年10月アーカイブ

・悪霊論―異界からのメッセージ
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「異人論」の続編。

日本にはカミは共同体の外部から訪れるとするマレビト思想がある。マレビトは異人であり、六部、山伏、高野聖、巫女、遍路のような宗教者であることが多い。

著者は異人が宿泊した家の村人によって、金品を奪われて殺されるという伝承の多さに注目した。その家は豊かになり繁栄する一方で、異人の祟りによって障害のあるこどもが生まれたり、没落したりする。妖怪や悪霊が棲み付いた家という評判が立つ。

本当に各地でそんな殺人事件が過去にあったのだろうか。伝承を分析していくと、多くの異人殺しは、後世に、飢饉や不運続きの理由を占うシャーマンによって、捏造された物語であることがわかる。


貨幣経済の影響で変動が生じている村落共同体に生きる人々は、特定の家が急速に長者に成長したとき、その急速な繁栄の原因を考える。どうしてなのか。なぜあの家なのか。人びとはその家に対する嫉妬心にもそそのかされて、充分に満足する説明を求め続ける。共同体はその願望に応えるために、シャーマン(託宣)に村落に生じた”異常”の原因を問うという形で、あるいは噂話という形で「異人殺し」伝承を語り出すのだ。「あの家は異人を殺して、その所持金を元手にして長者になったのだ」と。つまり、新しい長者を犯罪者に仕立て上げ、その家をさまざまな形で排除しようとしたわけである。

こうして悪霊が生み出された。過去の因縁によって狐憑きや鬼や物の怪が長者の家に棲み付き、悪さをする。そして、村人たちは災厄が大きくなると悪霊を退治するためにも、シャーマンの力を借りる。仏教系の力によって悪霊は退治退散させられるケースが多い。

悪霊語りをするシャーマンの社会的な立場を注目すると、なぜそうなるのかがわかる。


ここで主として取り上げた悪霊が語る物語から浮かび上がってきたのは、密教系の修験者たちの姿であり、天狗や狐といった悪霊であり、それと戦う仏教の守護神たちの姿であった。人びとはこうした悪霊の物語を受け容れることで、仏教のコスモロジーを受け容れたのである。

昔話でも知られる異人や悪霊の物語の構造は、ムラ社会の経済、社会、心理によって生み出された、排除の物語であった。

2章の「支配の始原学」では、明治時代に確立された支配原理としての天皇制が、なぜ日本各地のムラ社会に浸透できたのかを、ムラ社会側の社会システムや文化伝統から論じる。ここでは中央政治において恨みを残して敗死した貴人の祟りである御霊信仰がテーマになっている。平家の落ち武者伝説のように中央という外部からやってくるものをマレビトとして迎える土壌が、ここでも物語定着の原理となる。

民話や昔話の原型には、とても子ども向けとは思えない残酷さや突飛さのあるものが多いが、なぜそのような物語が語り継がれてきたのかが、よくわかる。妖怪や物の怪の発生原理を読み解く資料としてとても面白い一冊。

現代アメリカのキーワード

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・現代アメリカのキーワード
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帯より引用。 


アメリカに関する情報は大量に流通しているものの、私たちのアメリカ理解は今日なお、一面的、表層的、さらには因習的でさえある。アメリカではごく普通であったり、激しい議論の焦点になっている事柄でも、日本では話題に上らないものも多い。「九・一一」同時多発テロ以降、アメリカ社会におこった深刻な変化を視野に入れ、超大国の現状を最新の情報と明快な分析で提示する。二一世紀の世界を考えるための小事典。

ゲイテッド・コミュニティってどんなコミュニティか知っていますか?。グァンタナモ基地はどこにあって、内部で人権無視の非道がまかり通っている理由を知っていますか?。インディアン・カジノって何でしょう?。TDジェークスの名前を聞いたことがありますか。全米で最も有名なテレビ登場人物オプラ・ウィンフリーの番組を観たことがありますか?。

私はこの本を読むまで、どれもよく知りませんでした。

これは小辞典ですが、ひとつひとつの項目説明は強い問題意識を持って全体像と著者の視点が論じられている小論文集でもあります。日本のメディアに伝わってくるアメリカの情報が一面的であることがよくわかる本です。

本当のアメリカの姿が日本のメディアからは見えてこないという認識は、多くのアメリカ通日本人が持っていることのようです。検索エンジンで「アメリカに関する情報は」と調べてみたところ、次のような文章が1ページ目にひっかかりました。そのまま掲載します。

・アメリカに関する情報は - Google 検索
http://www.google.co.jp/search?sourceid=navclient&hl=ja&ie=UTF-8&rls=GGLD,GGLD:2005-14,GGLD:ja&q=%e3%82%a2%e3%83%a1%e3%83%aa%e3%82%ab%e3%81%ab%e9%96%a2%e3%81%99%e3%82%8b%e6%83%85%e5%a0%b1%e3%81%af

アメリカに関する情報は の検索結果 約 939,000 件

・アメリカに関する情報は大量に流通しているものの(上位3位はこの本の関係)
・アメリカに関する情報は溢れています。だが、その情報の大半は断片的な情報であったり、
・アメリカに関する情報は、各種メディアを通じて日本にいながら比較的に容易に入手できる。しかし日本語による報道では
・アメリカに関する情報は比較的入手しやすいが、宗教からアメリカを見ることはほとんど不可能である。
・アメリカに関する情報は、もっぱらハリウッド映画から得るしかありませんでした。
・アメリカに関する情報はその気になればいくらでも得ることができる。しかし、
・アメリカに関する情報は多分以前では報じられなかったようなものまでも耳に入ってくる。そんな濁流の中でアメリカという枝を掴んだろうか?
・アメリカに関する情報は多すぎて選択に困るほどだったし、

日本では、アメリカに関する情報は入手しやすいが一面的だという見方で、見事に共通しています。この本にはその見えない部分ばかりが81項目もあってとても勉強になりました。必要に応じて読み返したい本です。

・性と暴力のアメリカ―理念先行国家の矛盾と苦悶
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004747.html

・ルート66をゆく アメリカの「保守を訪ねて」
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004412.html

・エンジェルス・イン・アメリカ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004715.html

・アメリカ 最強のエリート教育
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002864.html

・日本はどう報じられているか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002233.html

・性と暴力のアメリカ―理念先行国家の矛盾と苦悶
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私が取材や旅行で訪問したアメリカというのは、観光客が見るアメリカでしかないのだろうなと、国際ニュースをみて思うことがある。中絶、児童虐待、同姓愛や同性結婚、銃規制など、性や暴力に関係する問題で、日本人の理解を超える激しい論争や暴動事件が起きる。それが本質的にどういうものなのか、実感がわかないのである。

中絶反対派が中絶手術を行う医師を殺してしまう、だとか、学校での銃乱射事件がある一方で、300万人の会員を誇る全米ライフル協会が政治に強大な影響力を持つこと、アメリカ男性の6人に1人、女性の4人に1人が子供時代に性的虐待を受けていることなど、事実は知っていても理解が難しい。


本書の第一の目的は、アメリカにおける性や暴力をめぐる問題の歴史的、法的、政治的、社会的、文化的側面を総合的に検証しながら、性や暴力がアメリカという国が抱える根源的課題を如実に反映している様子を浮き彫りにすることにある。

この本は性や暴力の特異国としてのアメリカを徹底分析する。


実は性をめぐる問題は、他者との関係をどう築くか、また暴力の問題は、紛争をどう解決するかという、ともに人為的な統合や理念先行の国家というアメリカが背負った宿命と深く関係している。言い換えれば、人為的な統合を宿命づけられた理念先行の実験国家であるアメリカは、性や暴力の問題が大きな社会的争点となるような構造をもともと内に抱えていると考えるべきなのだ。その意味では、性や暴力をめぐる問題は、アメリカという国家の本質に迫る重要な糸口であるだけでなく、この国の中枢に関わる現象としてとらえ直す必要がある。

アメリカの性と暴力は、ピューリタン入植にまで遡る。ピューリタンの禁欲的世界では姦通は死刑であり、性の誘惑に勝つことが美徳であった。婚姻外の性交渉や同性愛結婚は法律で厳しく規制されていた。20世紀にはいっても、特に黒人と白人の性交渉は極度なまでに警戒され、このルールを侵した黒人には凄惨なリンチが加えられた。

リンチとは開拓者コミュニティの自警行為に始まる超法規的暴力であった。リンチは人種隔離や死刑制度(現在も死刑囚の大半は黒人である)へと形を変えて連綿と続いていった。現代のベトナム戦争や湾岸戦争、アフガニスタン侵攻といった対外政策も、この脅威や異端の排除のための、リンチ暴力という見方ができると著者は述べている。

人為的な統合と理念先行の国家アメリカは、危険なほど性や暴力の問題と真正面から向き合う。とことんまで突き詰める。日本人はこうした問題を、個人レベルでもあからさまには語らないし、社会的な議題に設定することも少ない。激しく揉めるほど人々の価値観が違わないし、実際、なあなあで、なんとかなってきたではないかと思っている。なあなあでも、やはりまずいわけだが、この本に出てくるアメリカの危うさほどの大問題ではなさそうだ。

アメリカという歴史の浅い人工的な国家のいびつさが、性と暴力の問題に突出しているのだと思った。人種や階層間の格差の大きさもそれを激化させている。人間の営みは結局のところ、すべてシロクロつけられるものでもないし、無理に決めようとすれば暴力になってしまうということなのではないか。

「アメリカの保守」とともに、日本人にわかりにくい「アメリカの性と暴力」を理解するうえでよく書かれた本だと思う。

・ルート66をゆく アメリカの「保守を訪ねて」
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004412.html

遺品整理屋は見た!

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・遺品整理屋は見た!
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世の中いろいろな仕事があるもので...。


いひん・せいり・ぎょう【遺品整理業】

一人暮らしの人が亡くなった際、遺族に代わり故人の日用品や部屋の片づけを引き受ける専門業者。遺産相続争い、遺族の不仲、故人の内緒の性癖......亡くなったが故に初めて露見するような、さまざまな人間ドラマに立ち会うことも数多い。また、故人の死因は自然死に限らず、自殺、殺人......さまざまである。

殺人や自殺、行方不明の現場で、遺品の整理や現場の清掃を行うプロの著者が綴った衝撃的な事件簿が46本。


人間は誰もが家族や親類縁者に看取られながら死んでいくわけではありません。誰にも知られることなく、孤独のうちにひっそりと亡くなっている人も少なくありません。それでもすぐに発見されればいいのですが、必ずしもそうはいきません。

季節によって違いはありますが、死後何日かたつと遺体は必ず腐敗して死臭を発しはじめます。部屋の中は日を追ってひどい状態になっていきます。そうなると部屋の中にあるすべての物に死臭が付着して離れなくなります。死臭のついた遺品を手元におきたがる遺族の方はそうはいきません。

死臭漂う現場に入るのはプロでも勇気がいることのようで、毎回、気合を入れてドアを開けている。その先には、ゴキブリや蛆虫の大量発生、耐えられないほどの異臭、何日も放置された腐敗した遺体との遭遇など、我々にとっての非日常が、日常茶飯事にある。

遺品もさまざまである。大量のアダルトビデオやゴミの山、猫の大群を残していく人もいる。著者らは遺族や代理人の依頼で、その面倒な後片付けにを黙々と進めていく。

だが、現場より醜いのが、故人に無関心で自分勝手な遺族たち。業者任せで現場にも来ない。遺産相続でもめる。物理的にも心理的にもひどい状況の中で、著者は故人や関係者に対して、誠実に立派な仕事をしているなあと感心する。

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