Books-Culture: 2010年10月アーカイブ

・活字たんけん隊――めざせ、面白本の大海
41Te1CUZQnL__SL500_AA300_.jpg

本の雑誌編集長 椎名誠による読書案内本。

「たくさんの本を読んできた。作家の仕事をする用意なったのは、その読書の蓄積、それに感化されたやみくもな好奇に満ちたドタバタ的行動力ではないか、と自分では考えている。」

最初に書名を挙げてその本について批評する普通の書評とはスタイルが違う。日常の発見や旅行でのドタバタ体験についての面白いエッセイの中に、たくさんの本の紹介が散りばめられている。数ページの書評が何十本も続く書評本は頭の切り替えが必要で、読む側がつかれてしまうものだが、ベースがエッセイの名手椎名誠の文章だとどんどん読めてしまう。

実は欧米にはスリッパがないのではないかという発見のエッセイ「大日本スリッパ問題」では、スリッパをめぐって『はきもの世界史』、『おまるから始まる道具学』『春の数え方』『スリッパの法則 プロの投資家が教える「伸びる会社・ダメな会社」の見分け方』などの本を、考察の流れの中で自然に紹介している。全体的に文化史絡みの本が多いが、スリッパに履き替える会社に投資しちゃだめだという本はビジネス書である。椎名誠の読書は実に幅広い。

しかし、これだけ本を知っていても知識をひけらかす厭らしさがまったくない。次々に関連本を挙げて見せるが、あ、今の面白かった?じゃあこんなネタもあるよ、という風に読者を楽しませる精神で書かれているから、楽しく読めるのだ。こういうホスピタリティの精神を持った書評家ってなかなかいない。

この本で紹介されていた本をさっそく7冊ほど購入した。椎名誠は岩波新書から読書案内本シリーズを、これを含めて4冊出ている。まだまだ買わされてしまいそうだ。

辺境遊記

| | トラックバック(0)

・辺境遊記
51fbqTRw0oL__SL500_AA300_.jpg

バックパッカーとして気ままに旅するレイドバック感覚にどっぷり浸れる紀行文+肖像画+写真集。旅行先は世界と日本の辺境。キューバ、リオデジャネイロ、小笠原諸島、ツバル、カトマンズ、サハリン、大東諸島、ダラムサラ。

フリーライターとフリー絵描きがコンビを組んだ。ライターは現地の雰囲気と人々との会話を中心に旅の日々を書き、絵描きはボールペンで現地の人たちの肖像を描く。正しい事実を伝えようと言うのではなくて、ありのままを伝えようとする姿勢がいい。辺境からの世界認識は中央のそれとは違っている。

たとえばツバルの少年は自分たちの島が沈んでいるとは思っていない。昔からあんなかんじだという。もし沈んじゃったらどうするのか?と問えば、女の子が綺麗なニュージーランドに移住したいという。神に祈っているから大丈夫だと思うという大人もいる。実はツバルではゴミの不法投棄の方が深刻そうだなんていうことも知る。辺境で生まれて、生きて、死んでいく。画一的なグローバル志向の世界観と違って、ローカルな世界観は多様だ。

この本はビジュアルページが多いが、特にカラーボールペンで描いた肖像画が素晴らしい。人々の表情を見ているだけで人柄や生活ぶりが伝わってくる気がする。絵を描くのに40分から1時間半かかるそうだ。モデルになってもらうことを説得しなければならないし、柔らかくいい表情になってもらうためには、距離を詰める対話が必要だ。肖像画を描くという行為があったからこそ、現地の人たちの飾らない声がとれたのだろうと思う。著者の二人にヘンに問題意識がない、でも堕落しているわけでもない、という姿勢もよかった。

忙しくてなかなか旅行に行けないビジネスマンにおすすめ。私は毎晩寝る前に1章ずつ読んで、よい気分転換になりました。

・ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上)
41AR6TW4FML__SL500_AA300_.jpg

ベンチャー経営者におすすめの本を聞くと「ローマ人の物語」を挙げる人が多い。私も経営者だし、なかなか手が出なかったけど、そろそろ読んでおくかということで第一巻を読んでみた。いやあ、おもしろいじゃないのって当たり前か。傑作の誉れ高いシリーズ。

ローマの長い歴史には何百人ものリーダーが登場する。そこに共通点はない。頭脳明晰で徳の高いリーダーもいれば愚かな暴君もいる。頭がよくて仕事ができる人、人民を思う良い君主が必ずしも国の運営に成功するわけではないのが現実の歴史だ。どんなリーダーが成功するかは結局、ローマの置かれた状況による。独裁的で好戦的なリーダーが必要な時代もある。国の経営に普遍的な正解はない、それがベンチャー経営者が好きな部分なのかもしれない。

ローマを強くしたのは、実は英雄的なリーダーの力ではなくて文化や風土だったのかもしれない。ローマは伝統的に戦いに敗れた国の住民を奴隷にせずに、対等なローマ市民として迎え入れて、元老院の議席まで与えた。勝者も敗者も共に国づくりをすすめたのだ。「敗者を同化する彼らのやり方くらい、ローマを強大にした要因はなかった」というのはプルタルコスの言葉。企業の合併を連想する言葉でもあるなあ。

ローマについては、

「人間の行動原則の正し手を、
  宗教に求めたユダヤ人。
  哲学に求めたギリシア人。
  法律に求めたローマ人。」

という要約がある。

「宗教は、それを共有しない人との間では効力を発揮しない。だが、法は、価値観を共有しない人との間でも効力を発揮する。いや、共有しない人との間だからこそ必要なのだ。」

最近、経営における企業文化の重要性が見直されているが、価値観とそれを実現する仕組みづくりって組織にとって本当に重要なのだなと思う。まあ、まだ第一巻しか読んでいないので、まとめみたいなことは言えないんですが...。

・ROME[ローマ] コレクターズBOX
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/12/rome-box.html

このドラマも傑作。

このアーカイブについて

このページには、2010年10月以降に書かれたブログ記事のうちBooks-Cultureカテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブはBooks-Culture: 2010年8月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

Powered by Movable Type 4.1