2004年02月07日

インフォアーツ論―ネットワーク的知性とはなにか?このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加


スポンサード リンク

・インフォアーツ論―ネットワーク的知性とはなにか?
4896916956.09.MZZZZZZZ.jpg

■鋭い洞察と未来への提案

素晴らしい洞察。こんな本を1年間見つけられなかったのが悔しい。

著者は國學院大學教授の社会学者。社会学の老舗サイトのソキウスを1995年から主宰している。この本は、インターネットのユーザ像を社会学、心理学の観点から分析し、現代人のネットに対する偏った関わり方の問題提起をする。そして、「インフォアーツ」(ネットワーカー的情報資質、または情報学芸力)という資質を育てる教育を提案する本。

・ソキウス
http://www.socius.jp/

最初は、若い世代のインターネットユーザの無軌道ぶりを、ついていけない世代の権威が、ぼやき、説教する本なのではないかと疑った。実際、内容はオヤジの説教スタイルなのではあるが、説得力ある、感動的な説教を聴いた気がした。

社会学、心理学の専門知識を使って丁寧にネットユーザのネットへの関わり方を分析する。ユーザの心理や、実世界とオンラインの関係、陥りがちな偏向。著者は成熟した大人の視点でネット社会を俯瞰し、何が問題なのか、どうあるべきかと語る。いわゆる「べき論」本である。

■個人サイト論、ブログ論としても秀逸?

「個人サイトの社会的意義」という項で語られる、個人サイト論が面白い。人はなぜ個人サイトを立ち上げ、何を求めて日々運営を続けているのか?、

著者は個人サイトの本質を「自己言及の快感」と看破する。個人がWebで何かを語ろうとするなら、オーディエンスに対して、自分がなぜそのテーマを語る資格があるのかを説明しなければならない、という意識が働く。情報の送り手になることは自己をさらすことであり、パブリックな自己を役割として演じることが求められる。そして、人は「望ましい自己」の実現と維持に取り組み始める、というのが著者の見方である。

そして、ネット市民(ネチズン)を段階別に「社会的学習スタイル」「鏡像自己スタイル」「一般他者スタイル」「反省的自己スタイル」に分類し、ネット上の人格がこどもから大人へと成熟して行くものと論じる。(類型はデビス、バラン、マスコミュニケーションの4類型による。)

フリーでオープンなネットコミュニティ。著者は原始的民主主義の姿をそこにみて、その光と影を指摘する。「沈黙のらせん」「メディアホークス」「共有地の悲劇」「即興演奏されるニュース」「議題設定機能」「第3者効果」など、非常に興味深いキーワードや社会学の理論を使って、ネチズンの行動を読み解いて行く。

オンラインではなぜ意見が極端に偏るのか、流言が伝播しやすいのか、無意味なフレーム論争が起きやすいのか、理論的に説明してみせる。このあたりは、ネットコミュニティの主宰者や、ネットワーク的組織のリーダーならニヤリとする事例ばかりだし、まとめとして一読の価値があると思う。

■革新的な保守派の本

インターネット上のコミュニケーションでは、リアルの日常では起こらないようなトラブルがしばしば発生する。二つの世界は場の性質が異なっている。リアルな場は、参加者の社会的立場が似通っていたり、参加者の役割定義が明確な場である。

書き込んで逃げる=「書き得効果」は実世界ではありえない。ネットでは立場も役割も曖昧だし、演じている自己が実世界では発言しないような内容を発信する。リアルでは常識も立場もある先輩が、ネットではうかつな発言や行動をとってしまうこともある。

ネット上の人格の成長、社会性の獲得。ネットワーク社会人として必要な資質(インフォアーツ)があるはずだ、という著者の主張の中身は、単にネットのマナーや情報リテラシーが必要だと唱える人たちとは、異なる視点の問題提起である。

中盤以降は、著者によるネット社会の理想像が語られる。それを実現するには情報教育が重要という観点から、本のタイトルになっている「インフォアーツ」を育てる教育論となる。ネットに依存せず、バランスの良い情報収集や意思決定、コミュニケーションができる人間を育てるにはどうしたら良いか、という提案。

論が進むにつれ、説教臭さが増すことと、「インフォアーツ」の定義が概念レベルにとどまりがちで、私には分かりにくかった、という若干の不満はあるが、それは私が未熟だからかもしれない。理解不能な部分はあるものの、結局は夢中になって短時間で全体を通読した。

この著者は、進歩的考えを持っているけれど、本質は決して革新の人ではないと思う。むしろ、ネットの自由奔放さを伝統的価値に照らして批判する保守の人だと思う。しかし、聡明で成熟した保守の人であり、専門家として一流の分析をしていると感じる。読んでいて、反射的に、反発を感じるところも少なくなかったが、深い洞察力の持つ説得力にうならされた。書き込みだらけの一冊になってしまった。

インターネットを5年以上は使って情報発信やコミュニティに参加してきた人に特におすすめ。

参考URL:ソキウスより

・インターネット市民スタイル【知的作法編】
http://www.socius.jp/on/01.html


スポンサード リンク

Posted by daiya at 2004年02月07日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
Daiya Hashimoto. Get yours at bighugelabs.com/flickr
Comments
Post a comment









Remember personal info?