2004年07月09日

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学者の値打ち
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広い定義で日本の学者人口を見積もると少なくとも50万人で、隠れた学者を含めれば100万人いるかもしれないという。高度知識社会になった現代において、学者は大衆化し、身近な存在になった。ビジネスやジャーナリズムの世界から、学者に転ずる人も増えてきた。これだけ多様な出自と能力を持つ学者が多くなった現在、博士だから、教授だからというだけでは、私たちにとっての価値を見極めることは難しい。

これは哲学者で大学教授の著者が、一般人向けに学者の値踏みをする方法論を書いた、ある種嫌らしいがタメになる本。なお、この本では、人文科学系の学者のみを対象としており、自然科学系の学者は対象から除外されている。

著者は古今東西の学者の実力を実名で挙げて、以下の5項目、AA、A,B,Cの4段階で評価する。著書や論文を書いているだけ、授業を教えているだけ、政治がうまいだけでは一流ではないという多面的な評価方法だ。

研究者
教育者
人格
業績
学者総合

著者により「学者総合」が最高評価のAAが与えられた学者を挙げてみる。著者の価値観がこのリストから見えてくるかもしれない。

カント、ケインズ、シュンペーター、レヴィ・ストロース、柳田国男、三宅雪嶺、高橋亀吉、宮崎市定、中村幸彦、小西甚一、渡部昇一、谷沢永一。

学者の世界は、いまだ古臭い親分子分の人間関係(著者の言葉ではヤクザの組織と同じ)と、学閥に支配されていると著者は述べている。

文学や哲学の世界では特にその傾向は強いのかもしれない。論文が学会査読を通過するには、先輩の学者コミュニティにその内容が高く評価される必要があるが、人文科学の論文は、数字や事実による客観評価は難しい。自然と先輩学者の立場を支持する弟子、お気に入りに多くの票が集まってしまうとしてもおかしくない。

専門家コミュニティによる査定と人事制度自体が必ずしも悪ではないだろうと思う。前人の研究をよく調べ、それらを乗り越える新しい意見を言うことが学者の仕事であるから、先輩学者たちがその成否を判断するというのは、合理的な考え方だ。暗黙知の効率的共有の場として、長期的な師弟関係を作ることも、それ自体が悪いわけでもないはずだ。そもそも似たようなことは企業組織にだって、ある。多少の玉にキズを無視して上へ引き上げるような、長い目で人を育てる人事は、人間のコミュニティなのだから、適度にあるのが知恵だろう。

制度が腐敗するのは、制度に内在する要素ではなくて、学者の世界が閉じた世界であることに起因していると思う。外部からの学者への参入はあっても、逆は少ない。学者は学者の道を進まざるを得ない。有限のポストをめぐり内部の競争は激しくなるが、もっと広い世界や市場との交流、競争が起きない。お家争いや社内派閥抗争に陥った企業が競争力を失い淘汰されてしまうように、人間関係と学閥が異常に重視されるようになれば、その学者コミュニティはやがて衰退してしまう。

先端科学では、今、学際領域、産学連携といった外部との接点が注目されている。まだ周辺であるこうした領域が、活性化することで、コミュニティは外に開かれていく。著者がやっているような学者の多面的評価が、もっと一般的な評価方法となるのではないか、と予感する。無論、ビジネスになる、お金になる、だけが、新しい評価軸になっても困る。古き良き伝統を残しつつ、閉じつつ開かれる世界水島助教授の最新刊のタイトル、読書中)ということが、学術コミュニティのキーワードでもあるなあと思った。


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Posted by daiya at 2004年07月09日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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