2005年03月10日

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・人間は進歩してきたのか 「西欧近代」再考
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いい内容。

米国は9.11同時多発テロを野蛮な原理主義による文明に対する攻撃と呼び、その後のイラク侵攻を、「米国によるイラクを民主化し解放する戦い」として正当化した。結局、米国が侵攻の論拠とした大量破壊兵器は存在しなかったし、テロの根絶という目的も果たせなかった。正義と悪の戦いという米国が打ち出した構図の背景には、人間の求めるものはみな同じで、進歩は普遍である、とする西欧近代の進歩主義観がある。

この本はその成立から現在に至るまでの歴史を丁寧に要約し、近代進歩主義とは、結局、世界普遍の価値ではなく、西欧という一地域で発生したローカルルールでしかないことを明らかにする。

ハンチントンは、西欧的価値の核心にあるものとして次の8つを指摘した。

1 古典古代の遺産
2 キリスト教
3 ヨーロッパ系の言語
4 聖俗の権威の分離(政教分離)
5 法の支配
6 社会の多元性
7 代議制度
8 個人主義

これらは本質的に西欧的なもので、近代化以前から西欧の価値であった。よって西欧文明=近代文明とはいえない。これらの西欧的な価値は、イスラムやインドや中国、ロシアなどが共有できるものではありえないとする。

進歩主義は近代国家が生み出した幻想であるが、ホッブズやロック、ルソーらが作り上げた国民国家、国民の意思、国民主権の背景には、古典古代の遺産(ローマ、ギリシアの思想)やキリスト教の神という西欧固有の、普遍的ではないものが存在する。西欧の神がいなければ、個人も契約も成り立たない。

近代主義は歴史を断層的な変化によって進歩するものと捉えることも指摘される。進歩の象徴である、産業革命、市民革命、科学革命は、伝統的価値や旧体制を打ち壊し、新たなものが人為的に作り出されると考える。革命はその都度、伝統的価値を排除した「近代」を特権化する。決して歴史が重層的に積み重ならない。過去から学べなくなる。

フランス革命を批判したイギリス人の思想家エドモント・バークについて著者が書いた一文は興味深い。


緩やかな特権のなかにこそ、統治の知恵や社会の秩序をつくる秘訣があるというのが、バークの考えでした。特権、伝統、偏見------これらはたしかに合理的なものではないが、ここには先人の経験が蓄積されている。だとすれば、それが合理的でないという理由で、特権や伝統、偏見を破壊し、排除すべきではない。それを敢行したフランス革命は大混乱と残虐に陥るだろうというわけです。このバークの議論は、現代でも、まだ拝聴すべきものを含んでいると私には思われます。

私たちも民主主義や自由は良いものであると西欧風教育を受けて育っている。進歩主義思想にだいぶ染まっている。しかし、この価値観はローカルルールに過ぎず、それを共有しない文化と折り合っていくことを難しくしている。

また、個人が自由になること自体が権力を生み出すとしたフーコーの思想、近代的道徳とは弱者のルサンチマンを正当化したものに過ぎないとしたニーチェのニヒリズムなど、西欧進歩主義も突き詰めていくと、内部から崩壊してしまう。現代人はいったい何を「確かなもの」と考えるべきなのか。著者にも明確な答えはないようだ。それを銘銘が考える場がインターネットということになる気がする。

重要なのは多元的で、重層的な価値観、異質への寛容さなのかなあとこの本を読んで思った。中庸といってもいいかもしれない。特権、伝統、偏見という非合理にみえるものも、合理的に利用する東洋的知恵を、歴史から学ぶことが大切なのだろう。日本人はちょうどよい位置にいるような気がする。


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Posted by daiya at 2005年03月10日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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Comments

もうご存知かもしれませんが「木を見る西洋人、森を見る東洋人〜」なども
参考になるかと思います。
ではでは。

Posted by: ひろ at 2005年03月11日 09:38

あ〜、読まれてましたね。失礼しましたm(_ _)m

Posted by: ひろ at 2005年03月11日 09:40
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