2006年05月15日

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・地域情報化 認識と設計
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地域情報化は西欧をモデルにした国家の「計画」の時代から、地域独自のモデルをそれぞれが「設計」する時代になったという基本認識のもとに、学者とアクティビィストが結集してまとめた先端成果。

地域振興を考えているリーダーにも、「次は地域情報がビジネスになる」とたくらんでいるビジネスマンにも、参考になる本である。ハコモノでもなくキワモノでもない、ホンモノの地域情報化の知恵が詰まっている。

■「イ・ト・コ」と「仕掛け」

前半で地域情報化のキーワードが以下のように分析されている。


このように「地域」を強調するのは、地域コミュニティの共通の価値観や利益に基盤をおく信頼関係が、ネット社会の弱みというべき無秩序さや「ただ乗り傾向」を引き起こしやすいマイナスを補って、情報開示、参加、互助などの力をフルに発揮する土壌を提供してくれるのである。

これを理解するのに役立つのが「イ・ト・コ」と「仕掛け」というフレームワークである。周囲が沈滞する中で突出して活性化している地域を見ると、「インセンティブ=協働参加の誘因」と「トラスト=信頼関係」を、「コネクタ=関係性をつなぐ人」が構築して、ネットワークによって可能となる情報共有の「仕掛け」に命を吹き込んでいる、という共通の成功要因が見てとれる

インセンティブ、トラスト、コネクタ、仕掛け。地域情報化のキーワードは、意外にもWeb2.0のキーワードともそっくりだ。散在する力を結集し創発現象を引き起こすための仕組みをつくることが、ここでもホットな話題なのだ。同じ地域で生活している住民同士の信頼の束(ソーシャルキャピタル)は、安定した協働プロセスの基盤になる。

■地域情報化のインセンティブ

一番、興味深かったのが第9章「地域情報化のインセンティブ」であった。私と5年間一緒に会社を経営した小橋昭彦氏が書いている。彼は都会からのUターン組で、兵庫県の農村からインターネットの情報発信に取り組んでいる。地域づくりで総務大臣表彰を受けた。地域情報化のシンクタンクを立ち上げた。ときどき上京しては大学などで講義をしているようなのだが、具体的に何を考えているのかは実はこの本で初めて知った。

・小橋昭彦■今日の雑学
http://www.kobashi.ne.jp/

・こころのふるさと 田舎.tv
http://www.inaka.tv/

・情報社会生活研究所★生活者視点で日本をシフトアップ!
http://shiftup.jp/

彼が住むのは私も何度か訪れたことがあるが、何の変哲もない、良い田舎である。強い特徴があるとは思えなかったのだけれど、彼が主宰するイベント周辺には遠方からも大勢が参加しており、東京並の活気がある。まさに前述の「周囲が沈滞する中で突出して活性化している地域」である。もちろん最初から活気があったわけではなかったようだ。彼が「コネクタ」として創発のうねりを作り出したのは間違いない。

彼が都会と業界、そしてネットで実績をつくり自分の作法を確立するまではそばで見ていたのでよく知っている。彼は書き物(雑学本のベストセラー作家)やクリエイティブ(業界賞を何度も受賞したコピーライターでもある)など、自分一人でできる仕事では絶対的な自信を持つ人だが、変革のリーダーとしては随分穏やかで控えめな印象があった。だから、その後、なにが起きていたのか、物語として気になっていた。

■緑の培地理論

その成功プロセスを「緑の培地」理論として分析する。

彼は都会でIT分野で活動実績をつくり地元へUターンした。この半分部外者というスタート地点では、既存の地域プラットフォームに対して遠慮がはたらく。「出すぎた真似」はしたくない。そこで新しい地域情報化のプラットフォームを飲み会などでソフトに提案し、自分の作法で活動できる小さな場所を最初につくった。

そして、彼は都会や業界の人脈を、地域の既存プラットフォームに紹介して、情報化活動につなげていく。複数のプラットフォーム上の人脈をメタプラットフォームで外部と接続し、世界を狭くする。停滞していた地域に新しい情報やヒトが流れ込む。地域が外部から注目を受ける。これが、ありがたがられて、彼の作法も地域内で一定の居場所を認めてらえるようになった。

自分の作法を認めてもらうことの嬉しさは地域コミュニティに限らず、あらゆるコミュニティで新参者にとってのインセンティブになると思う。地域の信頼関係(ソーシャルキャピタル)がある場所ではなおさら強いものなのだろう。認めてもらったお礼に、彼は地域の人間を他のプラットフォームへ紹介してあげたくなる。地元と彼の間にインセンティブの正のフィードバックループが確立される。

彼は「地域を変えたいから」「郷土愛」といった大義名分よりも、自分の作法を地域に認めてもらえる個人的楽しさが、活動へのインセンティブとして働いたと書いている。「主役になれる」ことがやりがいにつながる。こうして、彼は「コネクター」という新しいタイプの「地元の名士」になった。

この本には、「人を元気にする」、「誰もが主役になれる」をキーワードに、ハコモノやキワモノではない地域情報化論が展開されている。彼のような実践家と丸田一氏、国領次郎氏、公文俊平氏などの学者が協働して、リアルとバーチャルのソーシャルネットワークを、どう結びつけるか、のヒントを集積している。地域情報化に関心のある人には強くおすすめの一冊である。


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Posted by daiya at 2006年05月15日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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Comments

橋本さん、こんばんは。トラックバックしようとしましたが、CGI Error というのが出てしまいます(私がよくわかっていないだけかもしれませんが・・・)ので、コメントを残します。
橋本さんの書評を読むといつもその本を読んでみたくなります。今回は図書館にリクエストして借り受け、読み始めました。(橋本さんは図書館はあまり利用なさいませんか?)
小橋さん執筆の第9章。「インセンティブ」、「縁の培地」等々耳慣れない言葉ながら興味深く、さらに「作法」という言葉がとても効いている気がしました。
橋本さんの書評のおかげで本の内容も理解しやすかったです。ありがとうございました。

Posted by: KYOKO at 2006年06月08日 00:45