2006年06月27日

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・聖水
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2001年度芥川賞受賞作「聖水」、1995年度文學界新人賞「ジェロニモの十字架」を含む、4編の文庫本。アマゾンでオススメされ、今頃読んで感動する。青来有一、その後の作品も全部読もうと思った。

4編とも、信仰と救済がテーマとして共通している。著者は地元九州長崎の、隠れキリシタンや原爆、海(干潟)といった土地の記憶を物語に重ね合わせる。キリシタンは神、原爆は死者、海は彼岸という、異界との接点である。そうしたものと向き合った人間の変容を、情感豊かな文体で丁寧に描く。

信仰と救済がテーマといっても、曽野綾子、三浦綾子のような、キリスト教信者的な作風とはだいぶ異なっている(著者に信仰があるかは知らない)。信仰の意味を問うような厳しさではない。信じることで救われる人間を描くと同時に、信じるものを取り巻く危うさ、不気味さ、不思議も常に対置させている。

そういえば4編とも、出てくるのは正統なキリスト教や仏教ではなく、ある種、邪宗的な色合いの信仰だ。そうした登場人物は、少し狂っているともいえる。その狂気が、かけがえのない癒しを与える聖性に変わる瞬間が、「聖水」や「ジェロニモの十字架」の物語のクライマックスに据えられている。

狂ったもの、穢れたもの、祟るものの異界から、聖なるものが出てくる、再生する。日本の土俗宗教的、神道的な宗教意識を強く感じる。歴史的にも異界との接点であった長崎の海と土の匂いがする舞台設定、情景描写がその意識を自然に包み込んでリアリティを与えている。土の中から掘り起こされた十字架であり、歴史の古層から蘇ったオライショが生きている。

エロスの描き方もうまい。エロスとタナトスの媒介にマリア的な女性が効果的に登場する。初期設定の死や暴力だけではスタティックになりがちな物語が、その存在によって、主人公の男性を突き動かし、生と性と聖が3つつながっていく。死が再生に循環する深さを与えている。

・表現者の現場
http://kyushu.yomiuri.co.jp/magazine/hyogen/0508/hg_508_050801.htm

・書評:カテゴリ 神話・宗教
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/cat_booksreligion.html


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Posted by daiya at 2006年06月27日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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