2006年10月23日

悪霊論―異界からのメッセージこのエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加


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・悪霊論―異界からのメッセージ
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「異人論」の続編。

日本にはカミは共同体の外部から訪れるとするマレビト思想がある。マレビトは異人であり、六部、山伏、高野聖、巫女、遍路のような宗教者であることが多い。

著者は異人が宿泊した家の村人によって、金品を奪われて殺されるという伝承の多さに注目した。その家は豊かになり繁栄する一方で、異人の祟りによって障害のあるこどもが生まれたり、没落したりする。妖怪や悪霊が棲み付いた家という評判が立つ。

本当に各地でそんな殺人事件が過去にあったのだろうか。伝承を分析していくと、多くの異人殺しは、後世に、飢饉や不運続きの理由を占うシャーマンによって、捏造された物語であることがわかる。


貨幣経済の影響で変動が生じている村落共同体に生きる人々は、特定の家が急速に長者に成長したとき、その急速な繁栄の原因を考える。どうしてなのか。なぜあの家なのか。人びとはその家に対する嫉妬心にもそそのかされて、充分に満足する説明を求め続ける。共同体はその願望に応えるために、シャーマン(託宣)に村落に生じた”異常”の原因を問うという形で、あるいは噂話という形で「異人殺し」伝承を語り出すのだ。「あの家は異人を殺して、その所持金を元手にして長者になったのだ」と。つまり、新しい長者を犯罪者に仕立て上げ、その家をさまざまな形で排除しようとしたわけである。

こうして悪霊が生み出された。過去の因縁によって狐憑きや鬼や物の怪が長者の家に棲み付き、悪さをする。そして、村人たちは災厄が大きくなると悪霊を退治するためにも、シャーマンの力を借りる。仏教系の力によって悪霊は退治退散させられるケースが多い。

悪霊語りをするシャーマンの社会的な立場を注目すると、なぜそうなるのかがわかる。


ここで主として取り上げた悪霊が語る物語から浮かび上がってきたのは、密教系の修験者たちの姿であり、天狗や狐といった悪霊であり、それと戦う仏教の守護神たちの姿であった。人びとはこうした悪霊の物語を受け容れることで、仏教のコスモロジーを受け容れたのである。

昔話でも知られる異人や悪霊の物語の構造は、ムラ社会の経済、社会、心理によって生み出された、排除の物語であった。

2章の「支配の始原学」では、明治時代に確立された支配原理としての天皇制が、なぜ日本各地のムラ社会に浸透できたのかを、ムラ社会側の社会システムや文化伝統から論じる。ここでは中央政治において恨みを残して敗死した貴人の祟りである御霊信仰がテーマになっている。平家の落ち武者伝説のように中央という外部からやってくるものをマレビトとして迎える土壌が、ここでも物語定着の原理となる。

民話や昔話の原型には、とても子ども向けとは思えない残酷さや突飛さのあるものが多いが、なぜそのような物語が語り継がれてきたのかが、よくわかる。妖怪や物の怪の発生原理を読み解く資料としてとても面白い一冊。


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Posted by daiya at 2006年10月23日 23:59 このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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