2003年11月27日

非言語(ノンバーバル)コミュニケーションこのエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加


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・非言語(ノンバーバル)コミュニケーション
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「二者間の対話では、ことばによって伝えられるメッセージ(コミュニケーションの内容)は、全体の35%にすぎず、残りの65%は、話しぶり、動作、ジェスチャー、相手との間のとり方など、ことば以外の手段によって伝えられる。」

私は大学時代に電話秘書代行センターの夜勤スタッフとして4年間働いていた。大小の企業や通信販売から、メーカー各種メンテナンス窓口、占い師事務所、葬儀屋、果てはSMクラブまで、夜間の電話受付を、顧客企業の社員のフリをして、代行する業務である。私たちは何十台も並んだ電話から聴こえる、顔の見えない相手と毎晩、声と声だけで格闘する日々を続けていた。

夜勤二人体制。だいたい一晩で100本程度の電話を1人のスタッフが応答することになる。新米アルバイトは、厳しいクレーム電話や緊急時対応に(夜間に企業にかかる電話なんてそんなものだ)、男でも本当に泣き出す。堅気でない方だとか酔っ払い、入退院を繰り返すノイローゼの患者、プロのクレーマー、いたずら電話の連続だ。回線の向こうから、怒声が当たり前のように聞こえてくる。ほとんどのアルバイトは一ヶ月の研修期間を終わらずに辞めていくが、私は適性があったのか、長く続き、ベテランスタッフとして社長に認められていた(と思う)。タイムカードの社員ナンバーは社長に次ぐ2番が少し誇らしかった。

1日100本として、勤務頻度は週2,3回。仮眠は3時間程度暇な夜は取れるものの、そのまま眠い頭で大学へ行き部室で寝るの繰り返し。年間120日程度。4年間だから、最低でも5万本以上の、電話対応をやったことになる。数年の経験のあるベテランスタッフなら、電話を受けた相手の第一声で、内容やその後の展開を読めた。電話の電流が壁の配線を流れるのを察知して、電話が鳴る前に受話器を取り上げ、隣の研修生を不思議がらせることもできた。秘書センターの電話が鳴る段階では、顧客の回線からの数コール分の転送時間が既にかかっているので、鳴ったらワンコールで取るのがプロなのだ。電話機との非言語コミュニケーションといったところか。

クレーム対応の現場の厳しさと接客技術をその道数十年の社長から躾けられた。会社にはまだCTIシステムによる支援などなかった。プロのオペレータになるべくマッチ棒を数えての何百回の復誦訓練。大変だったが楽しかった。激怒して怒鳴り込んできたお客に、何時間もつきあい、問題を解決し、朝方には「キミの名前は?会ってお礼を言いたい」との電話をもらったときの感動ドラマの体験は、その後もずっと覚えている。夜勤は二人体制。戦場のような職場で数年を共にした友人たちからは結婚式に招待される仲になった。長い月日が経った今もメールが時々届くのを楽しみにしている。

すこし話はそれたが、声には言葉以外のコミュニケーションが豊富に含まれていることを私はこの体験から知った。声の微妙な揺れや強弱、背景の雑音、電話の切り方、ウエイトメロディの種類や待機時間の長さ、沈黙、訛り。感情的になったお客のことばは、その内容よりも、周辺言語にこそ意味があった。冒頭のそういったことを、もっと知りたいと思って読んだのがこの本だ。

興味深い実験結果が続々と解説される。米コロンビア大学の実験では、8人の被験者に特定の感情を起こさせながら、アルファベットを読ませた。喋っている内容に意味がないわけだが、それを聴いた30人の判定者が、話し手の感情をどれだけ識別できるかを試験した。その結果は以下のようになったという。

感情     識別率
怒り      65%
不安     54%
悲しみ    49%
幸福     43%
同情     38%
満足     31%
愛情     25%
恐怖     25%
嫉妬     25%
誇り      21%

もしも判定者による判断がまぐれ当たりであったなら識別率は10%になるはずだ。判定者のうち最もよく当てた人の識別率は49%に及んだという。私たちは、話されている内容とは別に、声の抑揚や表情(周辺言語)から多くのことを読み取っている証拠だ。

非言語コミュニケーションは周辺言語だけではない。各種調査により、影響力の強い9種類の非言語コミュニケーションは次の9つであるとこの本では述べられ、各章が割り当てられている。世界中の心理学者や社会学者の実証例を根拠に、興味深い事例が続く。

1 人体(性別、年齢、体格、肌の色) 
2 動作(姿勢や動き)
3 目
4 周辺言語(話しことばの音声上の特徴)
5 沈黙
6 身体接触
7 対人的空間
8 時間
9 色彩

意外な事実も多かった。例えば最後の色彩では、実験で映画に1000秒に一コマの割合でポップコーンとコーラの写真を混ぜて客に見せたら、意識では見えなかったはずなのに、ポップコーンの売り上げが57.7%、コカコーラの売り上げが18.1%伸びたという話。これは結構有名なサブリミナル効果実験の話だと思う。しかし、この実験が行われたのは1950年代のことだそうで、その後の調査では、この種の効果では人間に行動を起こさせる理由になるという裏づけがとれていないそうだ。よくプロモーションの会議などで、この話は持ち出されるのだが、マーケティングのツールとしては弱いものなのだな、と勉強になった。

対面して話すということは、きっとテラバイトクラスの回線で、目の前の相手と情報通信を行うことだと思っている。コミュニケーションに占める非言語メッセージの率は65%。私たちはメールや電話やバーチャルリアリティや、Webページを使って、意思疎通をしているけれど、デジタルコミュニケーションで失ってしまっている情報は多いのだ。届くのはきっと数パーセントのメッセージ。対面と比べると、糸電話並みのナローバンドかもしれない。

どこまで非言語のメッセージを、センサーが吸い上げてビット化できるか、ソフトウェアが分析し補完できるか、伝えられるか。今後のコミュニケーション技術の課題は多そうだ。

評価:★★★☆☆

最後に参考URL:

・Truster
http://www.truster.com/24progpack.htm

心理分析ソフト。マイクに向かってしゃべると音声の波形から、ソフトウェアが嘘を話しているかどうかの度合いを判定する。99ドル。

・日立スーパーSHフォーラムのプレゼン「ビジョン技術とフレンドリーボット」
http://www.renesas.com/jpn/products/mpumcu/32bit/sh/forum/archive/gifudai_yamamotosensei.pdf
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人の表情を真似る、「ペンギン型人物表情自動認識システム」。そして写真は人間の真似をする「見よう見真似ロボットYAMATO」など。

・仮想世界におけるアバタの形状・様相・距離感に関する調査研究
http://www.dj.kit.ac.jp/seminar/1999/abstract/ja/98630030-ja.txt

短いアブストラクトだけれど面白い。仮想空間ゲームの中でも、親しさと立ち位置は相関するらしい。電車の横長い席が端から埋まって行くのと同じ原理。この本でも取り上げらた、いわゆるプロクセミックス(近接学)のバーチャル版。仮想世界でも親しくない異性にくっつくのは抵抗あるのだ。


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Posted by daiya at 2003年11月27日 23:59 このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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Comments

こんばんは
突然で申し訳ないのですが、
「二者間の対話では、ことばによって伝えられるメッセージ(コミュニケーションの内容)は、全体の35%にすぎず、残りの65%は、話しぶり、動作、ジェスチャー、相手との間のとり方など、ことば以外の手段によって伝えられる。」

が掲載されている論文を手に入れたいのですが
どのような方法がありますか、お教え頂けたらありがたいのですが。。

Posted by: 勘久保広一 at 2004年06月19日 22:05

http://www.businessballs.com/mehrabiancommunications.htm

これですかね

Posted by: fdさfだfdssfd at 2005年02月04日 02:10

あー、新興宗教まがいの精神改造セミナーとか
(ひやかすのが趣味)でよく引用されてる
「メラビアンの法則」ですね。
それ、サブリミナルと同様、デタラメですよ。

例えば↓を読んでみてくださいね。
ttp://mazzan.at.infoseek.co.jp/lesson9.html

Posted by: Name Name at 2005年03月24日 09:35