2004年07月28日

リストから関係性ネットワークがマーケティング資産の時代へこのエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加


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あるコミュニティへ今日は長文の投稿したので、それを少し編集して今日のブログ記事として使わせていただきます。eマーケティング、「関係性」やデータマイニング(テキストマイニング)というキーワードでこれからどんな新しいことができるだろうかという問題意識をつづったものです。

■リストから関係性ネットワークがマーケティング資産の時代へ

ソーシャルネットワーキングやブログのトラックバックネットワークのように、人間の関係性をネットワーク上に可視化する仕組みが普及の兆しを見せている。こうしたサービスによって、少なくともネットコミュニティの先端ユーザの関係性はだいぶ見通しがよくなってきた部分がある。大手企業もこうしたサービスを開始する事例さえ見られるようになった。

見込みどおりにこうしたサービスが普及すれば、企業が、顧客(潜在顧客含む)同士の関係性を把握することができるようになる。そして、その影響力の伝播の構造を分析し、ピンポイントにメッセージを伝達することで、効率良く、顧客行動の活性化を促すことができるのではないか?と期待がもたれている。

従来のeマーケティングはほとんどがリスト型ブロードキャストモデルであった。ユーザのIDを集める。具体的にはメールアドレスを収集する。このリストに付加情報を加えることで、いくつかの新しいeマーケティングの名称ができあがった。

・メールを送信してよい等の許諾つきのリスト=パーミッションマーケティング
・嗜好や顧客属性つきのリスト=オプトインマーケティング
・データベースとフィルターでリスト管理する=イーメールマーケティング

だが、どのマーケティングも実は、リストに対して企業から一方向のメッセージを送信するという点では一緒であった。付加情報から、顧客を幾つかのクラスタに分けて異なるメッセージを送信する工夫は、一定の成果を挙げたが、多くの企業が、同様の手法を取る中で陳腐化しつつある。誕生日のお祝いメールや、購入一週間後のお伺いメール程度では、顧客の感動体験はなくなりつつある。むしろ、そうしたメッセージが多すぎて煩く感じるユーザも少なくないはずだ。

■物語性の抽出と演出はマイニングだけでは難しい

ユーザによって入力された情報やショッピングサイトの購買利用履歴データを膨大に集めてデータマイニング、テキストマイニングすれば、宝物が見つかるという幻想も期待通りの成果は上がっていない。こうした情報は、断片的で一時的なものの集合に過ぎないからだ。そして分析にも希少な職人技が必要だからだ。

会社にいるときと家にいるときには違う属性を持つだろうし、生活ドラマの起承転結のどこにいるかによって、その時々で変わってしまう項目も多い。購買シーンにおける感動カスタマエクスペリエンスを演出するには、物語性が大切だなどと言われるが、物語性の抽出と演出には、属人的な才能が必要なのが現実だ。マイニングの成功例の中心には、万能の自動ツールではなく、優れた感性のデータの読み手がいる。そうした人材は数が少ないし、研修で量産育成できるタイプでもない。

マイニングのツールは安く使いやすいものも現れた。だが、それをどう使うか、はまた別の問題であることもはっきりしてきた。使い方こそ真の知識資産であるが、現在はまだ属人的な暗黙知にとどまっている。たんにこれが形式知化すればいいかというと、そうもいかないだろう。すべての企業が”秘密のやり方”と”万能マイニングツール”を持てば競争力はなくなる。

同時に、大きな顧客情報漏洩事件やスパムが社会問題化する中で、大きな個人情報リストを持つリスクやサポートコストも意識されるようになった。eマーケティングは何十億円もの訴訟リスクに見合うだけの価値をどうして証明できるだろうかと、不安を感じるマーケター、疑問を持つ経営者もいる。

■ブログ、ソーシャルネットワーキングの拓く新関係性マーケティング

そういう時期に、ブログやソーシャルネットワーキングが登場した。人間の関係性やコミュニティ活動のダイナミクスを、デジタルで補足する仕組みである。リストではなく、関係性のネットワークを活用した企業のマーケティング活動の可能性が見えてきた。

リストではなく、関係性を把握できれば、企業はネットワーク上のインフルエンサーに対して、特別なメッセージを少しだけ送るだけでよいことになる。潜在顧客のすべての詳細な個人情報も不要かもしれない。

従来のリスト型では、顧客同士の関係性は見通しが悪かったので、メッセージ送信後に顧客間インタラクション、即ちクチコミが起きるかどうかは、神に祈るしかなかった。だが、いつもクチコミを引き起こす中心人物にアクセスすることができるのなら、高確率でクチコミを発生させられる可能性もある。

インフルエンサとコミュニティと企業の関係性が再度注目される。企業はインフルエンサに対して、メッセージだけでなく、販促物としてのカタログデータ(アマゾンWebサービスなど)や、アフィリエイト等のインセンティブを提供することで、向き合うことができる。

■インフルエンサの発見、関係構築、サポート

インフルエンサとコミュニティは、情報の送り手と受け手としての関係や、友人・知人、先輩と後輩などの個別の関係を良好に維持したいと考えている。MLMにハマった先輩のようなメッセージばかりでは受け手もウンザリするから、インフルエンサは、そうではない魅力を提供したいと考えている。その材料を欲している。

こうした新しい関係性ネットワークの状況を前にeマーケティングが新しいやり方を発明できるのではないかと考える。

ネットは情報感度の高いユーザのクチコミ発生を誘発できるのではないかと従来から期待されてきたが、いよいよそのチャンスが本格到来しているのかもしれない。現在数十万人規模のソーシャルネットワーク、ブログコミュニティは規模を順調に拡大している。インスタントメッセンジャーやチャット、メールやビデオ、ケータイといったメディア複合化の傾向も出てきた。

マーケティングのコミュニティで、最近よく話題になる「関係性」だとか「マイニング」の技術は、こうした新しい領域でこそ活きてくる知識なのではないだろうか。

たとえば、

・関係性ネットワークからインフルエンサーを見つけるやり方
・インフルエンサーと企業との関係性、対話構築のやり方
・インフルエンサーとコミュニティとの良好な関係性をサポートするやり方

といったやり方を、ネットワークやコンピュータを使ってどう形作っていくか、それが今年や来年くらいのeマーケティングの醍醐味なのではないだろうか。


過去の関連エントリ:

・現代消費のニュートレンド―消費を活性化する18のキーワード
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001859.html

・〈快楽消費〉する社会―消費者が求めているものはなにか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001682.html

・ビジネスチャンス発見の技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001151.html

・情報イノベーター―共創社会のリーダーたち
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000927.html

・広告の天才たちが気づいている51の法則
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000686.html

■月刊ITセレクトで次世代eマーケティング特集記事

実はこれとほぼ同様のテーマで、メディアセレクト社の雑誌「ITセレクト2.0」から、先日取材を受けました。9月号の同誌でその内容が記事になる、はずです。取材に応えた後は編集部任せになっているので詳細は私も把握していないのですが、ご興味のある方は、書店でご覧ください。毎月29日発売です。つまり、明日(今日)ですね!。

・MediaSelect online:月刊 IT セレクト 最新号目次
http://www.mediaselect.co.jp/its/content.html
0409its.gif

変貌するeマーケティング
囲い込みから「顧客創造」へ
優良新規顧客を掘り起こせ!


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Posted by daiya at 2004年07月28日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
Daiya Hashimoto. Get yours at bighugelabs.com/flickr
Comments

 確かに関係性の構築とそれの発見はブログやSNSを利用すれば可能かもしれない。しかし、そこにマーケティングマインドを注入すると、関係性が変化することはないだろうか。
 口コミとは自らの主体的な利用を通じて得た、価値情報を、非意図的に、かつ相手にそれの利用を強制せずに伝えるような情報伝達であると、私は思う。その主体性の一部に、企業のマーケティングマインドが入ってくると、非意図性の一部も崩壊して、受け手は利用を強制されていると感じはしないだろうか。
 さらに、コミュニティの中にマーケティングマインドを入れないようにするために、コミュニティをクローズド化したり、非可視化するということも考えられないだろうか。
 ホームパーティー形式で台所用品を売るような感覚がSNSやブログで出てきたら、その関係をシャットアウトする人が、感覚的にではあるが、出てきそうな気がする。

Posted by: doubleloop at 2004年07月29日 09:07

こんにちは。

記事を読ませていただきました。
私も大学でマーケティングの卒論を作成していますが、
上記に沿う内容はなかなか資料は見当たらないです。
差し支えなければ、参考にした資料・書籍等あれば、
ご教示いただきたい。

Posted by: やまうち at 2004年07月29日 09:16

ITセレクトのシバタです。
橋本さんに取材ご協力いただいた記事は、確かに
本日発売の9月号で記事になっております。

「リスト」から「ネットワーク」へ

という副題で、橋本さんのお話を元に、私のほうで
2ページにまとめさせていただきました。本日より
書店店頭に並んでおりますのでご興味のある方は
ごらんになってみてください。

Posted by: シバタ at 2004年07月29日 11:44

doubleloopさん、そうですね。なので、向き合い方、サポートの仕方が課題という本論の趣旨でした。が、このテーマでなくても、現代都市生活者はマーケティングマインドに取り囲まれています。日常のほとんどのモノ、あるいはかなりのココロまでもがマーケティングマインドの産物ではありませんか。以前紹介した「自己コントロールの檻」などに商品化された現代人の問題が取り上げられていました。

やまうちさん、正解がある世界で仕事をできるのは学生のうちだけです。卒論は自分の考えを書きましょう。

Posted by: daiya at 2004年07月29日 15:59
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